2013年07月31日

『ホワイトハウス・ダウン』お薦め映画

★★★★ 2013年製作 米 (132 min)
【監督】ローランド・エメリッヒ
【出演者】チャニング・テイタム、ジェイミー・フォックス、マギー・ギレンホール、ジェイソン・クラーク、リチャード・ジェンキンス、ジョーイ・キング、ジェームズ・ウッズ
【あらすじ】アメリカ・ワシントンD.Cの警官ジョン・ケイルは、大統領の警護官(シークレット・サービス)の面接を受けるためホワイトハウスを訪れる。 面接の後、一緒に来ていた娘エミリーと館内の見学ツアーに参加するが、突然、爆音と共に謎の武装集団による攻撃が始まってしまった! 大統領と、ジョンの娘ら多くの人質を救うため、ジョンはたった一人で戦うことを決意するが…。 サスペンス・アクション。

『ホワイトハウス・ダウン』象のロケット
『ホワイトハウス・ダウン』作品を観た感想TB

whitehousedown1.jpg 【解説と感想】6月に、北朝鮮テロリストがホワイトハウスを乗っ取るという『エンド・オブ・ホワイトハウス』が公開された。あれから2ヶ月しか経っていないと言うのに、本作「ホワイトハウス・ダウン」では、またまたホワイトハウスが謎の武装集団に占拠されてしまった! 

米大統領が居住し執務を行うホワイトハウスを爆撃し、銃撃戦で制圧すること、厳重な警備の裏をかいて大統領を人質にし、米軍をコケにすることは、目立ちたがり精神旺盛なテロリストたちが、一度はやってみたい夢なのだろう。

両作品とも、現役のシークレットサービスではない男がたった一人で、大統領を守るために命がけで戦う。ストーリーもタイトルも似ていて混同しそうだが、どちらも甲乙つけ難いほど面白かった。

主人公ジョン・ケイル(チャニング・テイタム)は、ホワイトハウスの館内見学ツアー中に、爆弾テロに遭遇してしまう。

whitehousedown2.jpg 黒人である第46代大統領ジェームズ・ソイヤー(ジェイミー・フォックス)は、米軍の中東からの全部隊撤退と経済支援を推進し、中東と和平条約を結ぼうとしている平和主義者(明らかにモデルは第44代大統領バラク・オバマだ。)。テロリストたちの黒幕は、アメリカと仲良くなんかしたくない中東か、アジアか、または平和路線では儲からないアメリカの軍事企業関係者かと、様々な憶測が飛び交う。

アメリカで銃規制が進まないことも、軍事産業が戦争の後押しをしていると噂されていることも周知の事実。武器を持たない者は、簡単に人質になったり、殺されてしまうのだということを見せつけられる。軍の中枢もハッキングされてお手上げ状態。素手の一般ツアー客は逃げるか、降参するしかない。さて、軍隊の経験もない大統領はどうするのか…? 

whitehousedown3.jpg その日、ジョンがホワイトハウスを訪れた目的は見学ではなく、大統領警護官(シークレットサービス)の面接を受けるためだった。志望の第一動機は、別れた妻と暮らしている11歳の娘エミリー(ジョーイ・キング)が熱烈な大統領ファンだから。そして、エミリーも一緒に見学ツアーに参加していた。大統領ファンの小学生なんて、クセ者に決まっている。彼女は父親以上の肝っ玉の持ち主で大活躍。将来は憧れのホワイトハウスの住人になっているかもしれない。

たった今シークレットサービスの面接に落ちたばかりなのに、大統領を守る唯一の人間になってしまったジョンの原動力は、採用への野心ではなく最愛の娘エミリーを守りたいと言う親心。そうでなくてはここまで命を張ることはできない。父親を動かす最大の動機づけである。

実際にホワイトハウスの見学ツアーは大人気だったが、9.11テロ以降は入館審査が厳しくなり、一般市民は簡単には見学できなくなってしまった。その代わり、映画の中でツアーガイドの男性ドニー(ニコラス・ライト)が分かりやすい解説をしてくれるから、ちょっとしたホワイトハウス通になれる。

若き大統領の掲げる平和・外交政策には、アメリカの建前的理想が組み込まれているが、それがどんなに実行困難で、危険なことかも教えてくれる。戦争の代わりに外交を、銃の代わりに護身術を、なんて、軍事大国は簡単にチェンジできないのだ。

whitehousedown4.jpg ホワイトハウスが崩れ落ちていく様は壮観。ツアー気分を楽しみながら、にわかシークレットサービスの孤独な戦いを応援しよう。大迫力のホワイトハウス乗っ取りパニック。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


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2013年07月01日

『モンスターズ・ユニバーシティ』お薦め映画

★★★★ 2013年製作 米 (111 min)
【監督】ダン・スキャンロン
【出演者】(声)ジョン・グッドマン、ビリー・クリスタル、他
(日本語吹替)田中裕二、石塚英彦、他
【あらすじ】小さくてカワイイ一つ目のモンスター、マイクは、誰よりも恐ろしい“怖がらせ屋”になるため、伝統あるモンスター大学“モンスターズ・ユニバーシティ”に入学する。 しかし、学校には優秀な“怖がらせ屋”一族出身の青鬼のようなサリーをはじめ、マイクより大きくて才能あふれる未来の“怖がらせ屋”たちが大勢いた。 めげずに勉強に励むマイクだったが、学長から「怖くないモンスターはいらない」と言われてしまう…。 ファンタジーアドベンチャーCGアニメ第2弾。

『モンスターズ・ユニバーシティ』象のロケット
『モンスターズ・ユニバーシティ』作品を観た感想TB

画像(C)2013 DISNEY / PIXAR 

 【解説と感想】アニメーション映画を観る時は、ついつい“小さい子どもたちを引率して映画館へやって来た親”目線で鑑賞してしまいがちだ。かなり無理があるが“親に連れて来られた小さい子ども”目線で観ると、鑑賞後は周りの大人がパパママに見えてくる…とまではいかなくても、普段使わない脳やハートの部位を使ったような気がしてくる。ひょっとしたら上映時間の分だけ心身が若返ってしまうかもしれない!

MONSTERSU1.jpg 本作は『モンスターズ・インク』の主人公サリーとマイクの学生時代の物語だ。舞台はモンスター(怪物)たちが恐ろしさに磨きをかけ、一流の“怖がらせ屋”になるために勉強をする名門大学“モンスターズ・ユニバーシティ”。怪物エリートの登竜門「怖がらせ学部」に通うマイクは緑色の一つ目小僧。その相棒のサリーは毛むくじゃらの青鬼、ルームメイトのランドールは紫のカメレオン、同級生も首のいっぱいあるオネーチャンなど異形の若者ばかりで、実写ならかなりグロい集団のはずだが、カラフルで愛嬌たっぷりだから、ちぃーっとも怖くない。唯一恐ろしいのがムカデのような女学長で、厳格で無愛想で恐ろしい。学生たちの最終目標は、この学長のようなスーパーこわ〜いモンスターなのだ。

巨体のサリーは由緒正しい“怖がらせ屋”一族のサラブレッドで、何の努力もしなくても「ひと吠え」すれば人間の子どもを怖がらせることができる。一方、気の毒にも“カワイイ”という致命的欠陥があるマイク(子どもの頃の声は格別カワイイ!)は、いくら学科が優秀でも実技では落ちこぼれ。アリとキリギリス、ウサギとカメのように、いつかマイクがサリーより恐ろしいモンスターになる日が来る…とは、到底思えないのである。

MONSTERSU2.jpg それでもマイクはめげずに頑張り、いつしか怖くない落ちこぼれモンスターたちのリーダーになっていく。これが普通の企業だったら、まとめ役として重宝されそうな存在だ。企業には、優秀ではなくても、さまざまな“役割”を果たす社員がいる。しかし、そんな理屈はスーパーエリート学長には通じない。怖くなくっちゃモンスターじゃないのである。何てったって、ここは絶叫モンスター養成所なのだから。

サークル対抗“怖がらせ大会”の場面が最大の見せ場であり、とにかく楽しい。おかしなモンスターたちがめいっぱい学生生活を謳歌している。怖がらせスポ根ドラマといってもいい。憧れの“怖がらせ屋”になるという大きな夢に向かって切磋琢磨するモンスター学生たちの青春ドラマ。お薦め作品だ。
(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)




 
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2013年05月31日

『箱入り息子の恋』お薦め映画

★★★★ 2012年製作 日 (117 min)
【監督】市井昌秀
【出演者】星野源、夏帆、平泉成、森山良子、大杉漣、黒木瞳、穂のか
【あらすじ】市役所の記録課に勤務する天雫(あまのしずく)健太郎は35歳。 趣味ナシ彼女ナシの息子の将来を心配した両親は、親同士が見合いをする“代理見合い”に参加する。 ところが見合いの席で初めて、相手の女性・今井奈穂子が全く目が見えないことが発覚。 健太郎の両親は驚き、奈緒子の父親は健太郎の学歴や職歴では、奈緒子をサポートできないと決めつけるのだが…。 ラブ・ストーリー。

『箱入り息子の恋』象のロケット
『箱入り息子の恋』作品を観た感想TB

画像(C)2013「箱入り息子の恋」製作委員会 

hakoiri1.jpg 【解説と感想】見合い相手の条件が完璧で、互いに気に入って結婚したはずなのに、すぐ破綻することもある。恋愛でも見合いでも、本音は結婚話がある程度進むまで聞けないし、本性は結婚してからでないと分からない。条件より自分の直感を信じた方が、後々親や仲人を恨まずに済むだろう。

hakoiri2.jpg 市役所勤務の35歳の男性・健太郎(星野源)と、目が見えない20代の女性・奈穂子(夏帆)は、どちらも一人っ子で親と同居している。過保護な双方の両親は、将来一人ぼっちになってしまう子どもを心配して、親同士の代理見合いに出席。そこで知り合った、親からすれば決して理想的とは言えない相手を、子ども同志は気に入ってしまう。

hakoiri3.jpg 良くあるパターンやイメージを覆す人物設定だ。健太郎の両親(平泉成、森山良子)は奈穂子の目が見えないことに驚いたものの、交際に反対はしない。健太郎は見合いの前から奈穂子に一目ぼれ状態。奈緒子と奈緒子の母親(黒木瞳)は健太郎の人柄を気に入っている。一人だけ反対しているのは奈穂子の父親(大杉漣)。出世する見込みのない市役所職員で、ボランティア活動にも無縁なゲームオタクの健太郎に、大事な娘は任せられないと猛反対! 上から目線のガンコ親父である。

本当に健常者と身体障害者が対等な社会なら、本作のように、見合いの席で初めて身体が不自由なことを明かすこともアリかもしれないと考えさせられた。見合いは出会いの場だ。本人同士の気持ちが第一だし、本人や親の介護人を募集している訳ではないのだから。

hakoiri4.jpg 奈穂子と健太郎が散歩する場面は微笑ましく好感が持てる。あまり目の不自由さは前面に押し出されていない。結婚すればもちろん一生サポートすることになるが、それは後で学べば良いことだし、嫌なら恋愛止まりで結婚には至らないだろう。普通の見合いだって、付き合った上で別れることもある。まずは二人の気持ちを固めることが先だ。結婚のハードルには、それから立ち向かえばいい。

hakoiri5.jpg 奈穂子はいかにも男が守りたくなるような、色白のか弱きお嬢さん…と思っていたら、意外に積極的で驚かされる。健太郎はというと、35歳にして童貞。手つなぎのトキメキから始まった中高生並みの純愛は、猛スピードで突き進んで行く。奈穂子命の健太郎にはケガが絶えない。このあたりは、もうギャグだ。そして遅まきながら親離れの時期を迎えた箱入り息子と箱入り娘は、いつの間にかロミオとジュリエットになってしまっている。牛丼の吉野家での感動シーンにも、ついつい笑ってしまった。

一風変わった見合い話を、普通の奥手な男女と親の成長物語として描いているバリアフリーなラブ・コメディ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 

 
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2013年05月01日

『旅立ちの島唄 〜十五の春〜』お薦め映画

★★★★★ 2012年製作 日 (114 min)
【監督】吉田康弘
【出演者】三吉彩花、大竹しのぶ、小林薫、早織、立石涼子、ひーぷー、普久原明
【あらすじ】沖縄本島から360km東に位置する絶海の孤島・南大東島。 この島には高校がないため、進学する子どもたちは15歳で島を旅立つ。 地元の少女民謡グループ“ボロジノ娘”の新リーダーで中学3年の優奈は、さとうきび農家の父と二人暮らし。 母は兄と姉の進学に同行し、ずっと沖縄の中心地・那覇市で暮らしている。 優奈は北大東島のスポーツ少年・健斗と一緒に那覇の高校へ進学し、母と暮らすつもりでいたのだが…。 ふるさと青春ドラマ。
主題歌:BEGIN『春にゴンドラ』

『旅立ちの島唄 〜十五の春〜』象のロケット
『旅立ちの島唄 〜十五の春〜』作品を観た感想TB

画像(C)2012「旅立ちの島唄 〜十五の春〜」製作委員会

shimauta1.jpg 【解説と感想】沖縄県の南大東島は、沖縄本島から東へ約360km、飛行機で約1時間、船で約13時間かかるという断崖絶壁の孤島。ここは1900年に東京の八丈島から開拓団がやって来るまでは無人島で、終戦までは製糖会社の社有島だったという歴史があり、当時から現在に至るまで、基幹産業はサトウキビ栽培である。

本作は南大東島の少女・優奈(三吉彩花)が中学3年になってから卒業するまでの1年間を綴った物語だ。彼女は新垣則夫(実在の沖縄民謡歌手)が主宰する地元の民謡教室に通っており、そこの生徒たちで結成した少女民謡グループ“ボロジノ娘”(このグループも実在する)のメンバーだ。冒頭に彼女が舞台で歌うシーンがあり、まずはそのハレの民謡衣装姿に魅了された。大人になる前の純な美しさが何とも言えない。将来が楽しみだが、今のままの彼女でいて欲しい気もする。

shimauta2.jpg 優奈はサトウキビ農家の父(小林薫)と二人暮らし。島には高校がないため、母(大竹しのぶ)は、兄(小久保寿人)と姉(早織)の進学に同行して島を出て行った。15歳で一人暮らしをさせるのは心配だからか、中にはそういう母親もいるらしい。しかし、母は兄や姉が卒業した今も那覇で働いている。母は末っ子の優奈と一緒に暮らすのを待っているのだと言うが、島へ戻って来ないのは、そんな単純な理由ではないらしい。

優奈は、那覇での新生活への憧れと、住み慣れた島を離れる寂しさ、父を一人残していく不安、母への不信感、姉夫婦の心配、別の島に住むボーイフレンド健斗(手島隆寛)のこと、家族一緒に暮らしたいという願い、ボロジノ娘の卒業コンサートの準備など、考えることが多く忙しい。こんな純朴な少女も、島を出たらあっと言う間に大人になってしまうのだろう。

shimauta3.jpg もし島に高校があったら、優奈の一家は離れ離れにならなかったのだろうか?島で生まれ育ち、サトウキビ栽培しか考えられない寡黙な父親と、島の外から嫁いできた、どこでも働ける気の利いた母親の価値観の違いが、離島の複雑な事情を端的に表しているようだ。

どこまでも続く青い海や一面のサトウキビ畑を前に、独特の節回しの沖縄民謡が聴こえてくると、時間に追われ荒れていた心がスーッと癒されてゆく。行ったこともないのに、南大東島が自分の故郷だったような気がしてきた。しかしそれは、そこに住んだことのない外部の人間の観光感覚なのだろう。風光明媚で人情あふれる故郷を捨て、人々は都会のコンクリート街へ押し寄せる。

終盤に優奈が歌う南大東島の島唄「アバヨーイ(八丈島の方言で“さようなら”の意)」には、両親への感謝と島を旅立つ決意が込められていて、歌詞がそのまま作品のテーマになっているようだ。一言一句が心に染み入り泣けてくる。彼女の純情可憐な姿と歌声は、いつまでも心に残ることだろう。15歳で人生の岐路に立つ少年少女の揺れる思いを描いた、みずみずしい青春ドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)



 
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2013年04月01日

『セデック・バレ』お薦め映画

★★★★★ 2011年製作 台湾
(第一部:太陽旗 144 min)
(第二部:虹の橋 132 min)
【監督】ウェイ・ダーション
【出演者】リン・チンタイ、ダーチン、安藤政信、マー・ジーシアン、ビビアン・スー、木村祐一
【あらすじ/第一部:太陽旗】台湾中部・山岳地帯。 台湾先住民であるセデック族マヘボ集落の青年モーナ・ルダオは、頭目の息子として村の内外に勇名をとどろかせていた。 1895年、日清戦争で中国・清が敗れると、モーナたちが住む山奥にまで日本軍がやって来て、先住民(蕃人:ばんじん)は、過酷な労働と服従を強いられるようになった。 …それから35年後の1930年、部族の若者が日本人警察官と衝突してしまう…。 

【あらすじ/第二部:虹の橋】1930年、台湾・霧社地区。 セデック決起部隊が警察官駐在所や霧社公学校を襲撃し、多数の日本人が殺されてしまった。 日本軍は直ちに報復を開始するが、山岳地帯という地の利を最大限に生かしたセデックの前に苦戦を強いられる。 襲撃で妻子を殺された小島巡査は、決起部隊のリーダー、モーナ・ルダオと反目していて襲撃に参加しなかった部落のタイモ・ワリスに、日本軍に協力するよう働きかけるのだが…。 「霧社事件(むしゃじけん)」に基づく歴史ドラマ。

アカデミー賞外国語映画賞台湾代表、台湾金馬奨グランプリ・助演男優賞・オリジナル音楽賞・音響効果賞・観客賞・最優秀台湾映画人賞、他受賞

『セデック・バレ 第一部:太陽旗』象のロケット
『セデック・バレ 第一部:太陽旗』作品を観た感想TB

『セデック・バレ 第二部:虹の橋』象のロケット
『セデック・バレ 第二部:虹の橋』作品を観た感想TB

画像(C)2011 Central Motion Picture Corporation & ARS Film Production

seediqbale1.jpg 【解説と感想】 本作は1930年(昭和5年)に日本統治下の台湾で起こった、先住民セデック族の抗日暴動「霧社事件(むしゃじけん)」を題材にした、第一部144分、第二部132分の超大作である。私はこの事件を学校で習った記憶がないし、台湾の先住民のことも知らなかったが、合計276分の授業(上映時間)で事件の概要が掴めた気がする。非常に中立的な目で描かれており、「日本人が台湾でひどいことをした」「台湾の先住民に大勢の日本人が殺された」ことを抜きにして語れないのは当然だが、メインテーマは「台湾先住民の誇り」である。

先住民問題は世界各地に存在する。先住民で良く知られているのが、アメリカのいわゆるインディアン、北極圏のエスキモー、オーストラリアのアボリジニ、ニュージーランドのマオリ、アフリカのマサイだ。日本でも古代に新しい支配者層から追い払われた先住民がいて、北へ行ったのが北海道のアイヌ民族や蝦夷(えみし)、南へ行ったのが沖縄のいわゆる琉球民族や熊襲(くまそ)、山岳地帯へ行ったのが謎の民サンカではないかという説があるが、詳細は不明である。

seediqbale3.jpg 台湾にはもともとポリネシア系と推測される人々が住んでいて、多くの部族に分かれていた。ところが、16世紀半ばにポルトガルにその存在を知られてからは、オランダ、鄭氏(漢民族)、清朝(満州族)、そして日本と、常に外国の支配下に置かれることになった。長い間に混血も進んだだろうが、ずっと昔のままの文化を守って暮らしていた人々もいて、彼らは“蕃人(ばんじん:野蛮人)”と呼ばれて差別されていたのだ。台湾の国立故宮博物館の近くに原住民博物館(中国語では先住民を原住民と呼ぶ)があるそうなので、観光旅行の際にでも立ち寄られてはいかがだろうか。

seediqbale5.jpg 山岳地帯に住む先住民の狩猟民族セデック族は、男女ともに顔に入れ墨をするのが大人の証であり、戦った相手の首を狩ることが男子の通過儀礼であった。それを見た外国人は驚いて、ただでさえ蔑んでいる被支配者層を野蛮人と呼んだのだろう。本作中にも日本人が「俺たちがお前たちを近代化してやったのだ」と言うシーンがあるが、文明開化が余計なお世話の場合もある。彼らはそれまで何も不自由は感じていなかったし、日本的な生活を強要されたせいで、独自の風習が守れなくなってしまったのだ。支配した国を自分たちの様式に染めるのは古代からの習いであるが、中途半端な近代化はかえって混乱をもたらしてしまう。

seediqbale2.jpg セデック蜂起軍のリーダー、モーナ・ルダオ役を始め、先住民の血を引く多くの人々が出演している。モーナの青年期を演じるハンサムなダーチンは、幼い頃から狩りなどの訓練を受けて育ったとのことで、武道家とは一味違う野性味を放っている。壮年期を演じるリン・チンタイは、部族の長で牧師でもあるという。その鋭い眼光からは尋常ではないカリスマ性が感じられ、目が離せない。

seediqbale4.jpg 最後まで戦うことに乗り気でなかったモーナは、まるで大石内蔵助で、死を前提とした突入は、赤穂浪士の討ち入りのように見えた。第一部のサブタイトル「太陽旗」は日章旗・日の丸のことで、第二部のサブタイトル「虹の橋」は、先祖に恥じぬ生き方をした者だけが渡れる三途の川のようなものの意味である。「セデック・バレ」とは“真の人”という意味のセデック語(現在の台湾の国語は中国語)。命より誇りを重んじた台湾先住民の戦いが、今や多数の民族を内包した台湾全体の誇りとなっているように感じられる歴史アクション大作。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)




 
posted by 象のロケット at 20:11| Comment(0) | TrackBack(3) | 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする