2014年09月28日

『ミニスキュル〜森の小さな仲間たち〜』お薦め映画

★★★★★ 2013年製作 仏 (89 min)
【監督】エレーヌ・ジロー、トマス・ザボ
【あらすじ】森でピクニックをしていた人間が、角砂糖がたっぷり入った缶を残して帰って行った。 家族とはぐれてしまった一匹のてんとう虫が、缶の中で雨宿りをしていたが、働き者の黒アリたちは、その缶を自分たちの巣へ運び始める。 てんとう虫も、仲良くなった黒アリたちを手伝うことに。 険しい岩山を越え、川を下り、車道を渡り、命がけの旅を続ける彼らの前に、角砂糖を狙う赤アリの大群が現われた…。 アニメーション。

『ミニスキュル〜森の小さな仲間たち〜』象のロケット
『ミニスキュル〜森の小さな仲間たち〜』作品を観た感想TB

画像(C)MMXIII Futurikon Films - Entre Chien et Loup - Nozon Paris - Nozon SPRL - 2d3D Animations. All rights reserved.

MINUSCULE1.jpg 【解説と感想】野生動物の姿を捉えたネイチャー・ドキュメンタリーは、テレビでも映画でも、根強い人気がある。技術がどんどん進んでいるので、その度に更新される、“世界初”や“世界一”の、驚異的な映像に驚かされることもしばしばだ。そして、大自然の美しさや、可愛らしい動物の姿、効果的な音楽に癒される。動物はしゃべらないが鳴くことはできるし、テレパシー能力があるとも言われている。何らかの信号を発していることは間違いないだろう。

MINUSCULE2.jpg 本作はドキュメンタリーではなく、実写、CGアニメ、3Dを組み合わせたファンタジーで、フランスのテレビシリーズの劇場版である。舞台は南フランスの自然保護区にある国立公園で、森の風景は自然そのままだが、動物たちはアニメーション。小道具となる人間が捨てたゴミなどは、アニメと実写の区別がつかないほど精巧に作られている。

MINUSCULE3.jpg 登場するのは、森に住んでいるてんとう虫、アリ、クモ、ハエ、カタツムリなどの小さな小さな虫たち。家族とはぐれた主人公のてんとう虫が、砂糖の入った缶を巣へと運ぶ黒アリ集団と一緒に旅をするという物語。険しい岩山を越え、川を下り、車道を渡るというだけでも命がけなのに、砂糖を狙う悪役・赤アリ軍団が登場し、お宝争奪戦が勃発する! 人間が散歩やピクニックに出かける美しい森は、虫たちにとっては弱肉強食の厳しい世界なのだ。

MINUSCULE4.jpg 人間の足ならたいしたことはないかもしれないが、ムシ目線だと、それはそれは大変な距離である。黒アリの司令塔が、効率の良い砂糖の運び方、安全なルートを的確に指示し、危険が迫ると臨機応変に対処する。彼らの賢くて一生懸命な行動が、実に愉快で笑ってしまう! 生きるため、エサを運ぶため、彼らは一致団結して遥か遠くの巣を目指す。

飛べたらもっと黒アリの役に立てるのに、このハグレてんとう虫は、ケガをしていて飛ぶことが出来ない。友達にはなれたけれど、てんとう虫がアリの巣で暮らせるだろうか? 終点にたどり着いたら、彼はどうするのかと、途中ちょっと心配になってきてしまう。

MINUSCULE5.jpg 虫たちは人間の言葉でしゃべったりはしない。その代わり、目がクルクルと動いて表情豊か。身振り手振りや、面白いわめき声で、虫たちが何を言っているのかが全部わかってしまう。映像はキレイだし、分かりやすくて感動的な友情物語だ。鑑賞後の満足度は、非常に高いと思う。本作を見た後で、ネイチャー・ドキュメンタリーを見ると、動物の声やテレパシーが聞こえてくるような気がしてくるだろう。砂糖に群がるアリを見る目も、違ってくるかもしれない。

小さなお子様から年配の方まで、誰もが虫たちの言葉を理解し森の仲間になれる、可愛らしいアクション・アドベンチャー。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
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2014年09月02日

『リスボンに誘われて』お薦め映画

★★★★★ 2012年製作 独・スイス・ポルトガル (111 min)
【監督】ビレ・アウグスト(レ・ミゼラブル、マンデラの名もなき看守、愛の風景、ペレ)
【出演者】ジェレミー・アイアンズ(ダンジョン&ドラゴン、仮面の男、永遠のマリア・カラス、ダイ・ハード3)
メラニー・ロラン(複製された男、黄色い星の子供たち、イングロリアス・バスターズ、オーケストラ!)
ジャック・ヒューストン(ファクトリー・ガール)
マルティナ・ゲデック、トム・コートネイ、アウグスト・ディール、ブルーノ・ガンツ
【あらすじ】スイスの首都ベルンの男性高校教師ライムント・グレゴリウスは、吊り橋から飛び降りようとしていた女性を引き留める。 彼女が残した1冊の本には、ポルトガルの首都リスボン行きの切符が挟まれていた。 駅へ向かった彼は、発車しかけた夜行列車に飛び乗ってしまう。 車中で読んだ本に心を奪われた彼は、革命闘士だった著者アマデウ・デ・プラドの家を訪ねることに…。 ヒューマンドラマ。 ≪1行目で心が動き、2ページ目で列車に飛び乗り、3章目で人生が変わった。≫
原作:パスカル・メルシエ『リスボンへの夜行列車』

『リスボンに誘われて』象のロケット
『リスボンに誘われて』作品を観た感想TB

画像(C)2012 Studio Hamburg FilmProduktion GmbH / C-Films AG / C-Films Deutschland GmbH / Cinemate SA. All rights reserved.

Lisbon1.jpg 【解説と感想】退屈な毎日を過ごしている人は波乱万丈な人生に憧れ、浮き沈みの多い人生を送っている人は、平凡な暮らしに憧れる。人生は簡単には変えられないが、本や演劇、映画、新聞、テレビ、インターネットなどでは、思いがけない世界や人生に触れることができる。もちろん、それはあくまでも疑似体験。世の中を何となく「知ったつもり」でいたけれど、社会に出てみたら、疑似体験と現実の差に愕然としたという方は多いはずだ。 しかし、本や映画が、人生を変えるヒントを与えてくれることは確かにある。

Lisbon2.jpg 主人公の初老の男ライムント(ジェレミー・アイアンズ)は、スイス・ベルンの高校教師。自殺しようとしていた若い女を追いかけ、ポルトガル・リスボン行きの夜行列車に飛び乗ってしまう。彼が恋に落ちたのは女ではなく、何と女が残していった一冊の本! 彼は、自分の考えが全て書かれているような本『言葉の金細工師』に出会ってしまった。そしてその著者である医師アマデウ・デ・プラド(ジャック・ヒューストン)の思想や人生を理解するため、彼や彼を知る人々に会いに行くというストーリーだ。

本作の原作は2004年に出版された『リスボンへの夜行列車』で、著者パスカル・メルシエは、1944年スイス生まれの哲学者。そのせいか、断片的に紹介されるアマデウの文章は、底なし沼のように深い。興味津々で分厚い原作も読んだのだが、原作中のアマデウの文章は膨大で、更に難しかった。

Lisbon3.jpg 映画は省くところは省き脚色を加え、わかりやすく美しいドラマになっている。映像、音楽、セリフ、全てが印象的だ。老人たち(トム・コートネイ、ブルーノ・ガンツ、シャーロット・ランプリング、レナ・オリン、クリストファー・リー)は、まるでライムントを待っていたかのように沈黙を破り、アマデウのこと、革命前後のことを語り始める。

Lisbon4.jpg スイスとポルトガルでは気候が違う。太陽がまぶしく、ライムントが、まるで初めて外の光を浴びた人間のように見えてくる。彼が訪ねるのは、病院、薬局、介護施設、墓地など、ロマンチックとは程遠い所ばかりなのに、どれもが絵になり、旅情がかきたてられる。観光スポットはさりげなく入っている方がいい。ライムントとリスボンの女医マリアナ(マルティナ・ゲデック)との、微妙な関係の行方も気になる。

革命闘士たちの青春、アマデウとジョルジュ(アウグスト・ディール)の友情、エステファニア(メラニー・ロラン)との激しい恋の真相を知れば知るほど圧倒され、ライムントは自分自身を見つめ直す。本に埋もれるような毎日を送っていた彼は、本の外に人生があることに気づくのだ。

Lisbon5.jpg 椅子に座って読むことだけが読書ではない。そして本の内容を全て理解できたとしても、読書はそこで終わりではない。1冊の本が、転機をもたらすこともある。年配の方は若き日の人生の岐路を思い起こし、若い方は旅に出たくなるかもしれない。結果、人生が変わるかどうかは、あなた次第。究極の読書を成し遂げた、夢のような大人の冒険旅行物語。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)




 
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2014年08月01日

『ホットロード』お薦め映画

★★★★ 2014年製作 日 (119 min)
【監督】三木孝浩(僕等がいた、陽だまりの彼女、ソラニン)
【出演者】
能年玲奈(あまちゃん、カラスの親指、グッモーエビアン!)
登坂広臣
木村佳乃(ISOLA 多重人格少女、船を降りたら彼女の島、おろち OROCHI、蝉しぐれ
小澤征悦、鈴木亮平、利重剛、鷲尾真知子
【あらすじ】亡き父親の写真が1枚もない家で母親と暮らす14歳の少女・宮市和希は、自分が望まれて生まれてきた子どもではないことに心を痛めていた。 ある日、親友えりに誘われるまま出かけた夜の湘南で出会ったのは、ガソリンスタンドで働いている少年・春山洋志。 惹かれ合う二人だったが、Nights(ナイツ)という不良チームに属する春山は、敵対するチーム漠統(ばくとう)との抗争に巻き込まれていく…。 青春ドラマ。
原作:紡木たく(コミック) 主題歌:尾崎豊『OH MY LITTLE GIRL』

『ホットロード』象のロケット
『ホットロード』作品を観た感想TB

画像(C)2014「ホットロード」製作委員会 (c)紡木たく/集英社

hotroad1.jpg 【解説と感想】「あの“あまちゃん”の 能年玲奈が、ヤンキー娘に!」と話題になった本作。全国の朝ドラファンは心配しているかもしれない。地元のアイドル海女のあまちゃんは、どんな札付きの不良になってしまったのか? そんなに朝ドラは見ていなかったが、あまちゃんのイメージは捨てて観なくては、と心して試写に臨んだ。

hotroad2.jpg 最初のアップでは20歳相当の顔に見えた。だが、ヤンキー娘の役だから、高校生だろうか。うん、高校生に見える。なんてったって、あまちゃんだから。ところが、本人の口から“14歳”という言葉が出てきたのには驚いた。「ホットロード」の主人公・宮市和希(能年玲奈)は中学生だったのである! あらら大丈夫かと思ったが、そのうち、ちゃんと中学生に見えてきたから、さすが、であった。

hotroad4.jpg 初めはヤンキーではなく、ちょっとひねくれた普通の中学生。恋人がいるママ(木村佳乃)への当てつけに万引きをやったりする、甘ったれ小娘だ。私には娘よりママの方がビョーキに見えた。高校時代の恋人・鈴木(小澤征悦)ではなく、詳細は不明だが若くして別の男と嫌々ながら結婚。和希が幼い頃に夫は死亡するが、家の中には(嫌いな)夫の写真が一枚もない。そして別の女性と結婚した鈴木との関係が、ずっと続いているのである。母親というより、娘そっちのけで恋する乙女なのだ。家で「鈴木クン」とラブラブの電話をしてたりすれば、そりゃー、グレたくもなるだろーよ。

hotroad3.jpg そんな乙女ママの娘・和希もどこかお嬢さんっぽい。中学は荒れてはいないし、友達も似たような普通の少女ばかり。だが、ひとりぼっち感の強い彼女は、“不良”という噂がある校内では浮いた転校生えり(竹富聖花)に親近感を抱く。えりの影響で湘南の暴走族グループとの付き合いが始まり、暴走族Nights(ナイツ)の次期リーダーと目される春山洋志(登坂広臣)のカノジョになってしまう。

あっと言う間に、不良少女への道をまっしぐら! 不良というと、茶髪、金髪、飲酒、喫煙、シンナー(アンパン)、危険ドラッグ(脱法ドラッグ)、覚醒剤、麻薬、不登校、家出、留年、中退、援助交際、セックス、妊娠、堕胎、ヤンママ、ケンカ、暴力、無免許運転、交通事故、補導、少年鑑別所、少年院、少年刑務所…、と、どこまでもいろいろな心配をしてしまう。和希がどこまでの不良になるのか、ここで述べるのは簡単だが、やめておく。

気になったので念のため原作コミックも読んでみた。和希の不良度数やエピソードもそのまんまで、概ね原作に忠実な映画だと思う。全体的に出演者の年齢は高いけれど、演技に満足できたので許容範囲だ。反発しつつもママが恋しい、まだ子どもと少女の中間にいるような中学生・和希と、チームのリーダーが代々受け継いできたバイク400four(ヨンフォア)に憧れる、少年と青年の狭間にいる暴走族・春山が惹かれ合う様子、その他の登場人物たちの恋愛模様にも納得できた。

終盤、不覚にも私は泣いてしまった。若すぎる二人の愛に打算はなく、一途そのもの。親はいても孤独を抱えていた者たちが、仲間が出来た喜びや、人を愛することを知り、命の大切さを教えられる。それまで見えなかったものが見えてきて、人は大人になって行くのだろう。まだ幼さの残る少年少女の純愛ラブストーリー。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
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2014年06月30日

『ダイバージェント』お薦め映画

★★★★ 2014年製作 米 (139 min)
【監督】ニール・バーガー(幻影師アイゼンハイム)
【出演者】シャイリーン・ウッドリー(ファミリー・ツリー)
テオ・ジェームズ(アンダーワールド 覚醒)
アシュレイ・ジャッド(ツイステッド、ダブル・ジョパディー、あなたのために、五線譜のラブレター)
マギー・Q、ケイト・ウィンスレット、ジェイ・コートニー、ゾーイ・イザベラ・クラヴィッツ
【あらすじ】近未来。 世界の安定を保つため、全人類は≪選択の儀式≫という適正テストで振り分けられ、5つの共同体のいずれかに生涯所属することを義務付けられていた。 それは【無欲】、【平和】、【高潔】、【勇敢】、【博学】の5つ。 しかし、【無欲】の家庭で育った少女ベアトリスは、そのいずれにも適合しない“異端者(ダイバージェント)”だった。 彼女は検査結果を隠して【勇敢】に加入するのだが…。 SFアクション。

『ダイバージェント』象のロケット
『ダイバージェント』作品を観た感想TB

画像(C)2014 Summit Entertainmet, LLC. All rights reserved.

DIVERGENT1.jpg 【解説と感想】本作の舞台は、最終戦争から100年後の近未来。いつどんな戦争が起こったのかは不明だが、とにかくもう戦争を繰り返したくないと思った人類は、新たな社会体制を作り上げた。思春期に受ける性格診断テストで、人類を【無欲】【平和】【高潔】【勇敢】【博学】という5つの共同体に振り分ける。彼らはそこで結婚し、一生をその共同体で過ごす。生まれた子どもたちは、時期が来たら適性テストを受けて振り分けられる…の繰り返し。

共同体は性格と適正で分けられているから、共同体内の者たちは気が合うし、仕事も自分に合っているはずの職業に就くことができる。だから社会に対して大きな不満は抱かない。何となく、理想的だが現実にはあり得ない社会主義国のようだ。

主人公のベアトリス(シャイリーン・ウッドリー)は、政権を担当している【無欲】の共同体で育ったが、実は5つの分類からはみ出してしまう【異端者(ダイバージェント)】だった。ダイバージェントは未知の特殊能力を持つ危険分子。どこの共同体にも入れず、ホームレスのような暮らしを余儀なくされ、しかも密かに殺されてしまうという。

DIVERGENT2.jpg ベアトリスは女性検査官(マギー・Q)の計らいで検査結果を隠し、生まれた共同体を捨て、【勇敢】の共同体で生きることを決める。修道女のような【無欲】の生活にウンザリしていた彼女は、【勇気】の活動的な生活に憧れを抱いていた。まるで、親元で就職しろと言う田舎の両親を振り切り、憧れの都会へ出て行く女の子のようだ。

彼女は環境や意識の違いに驚きながらも、クリスティーナ(ゾーイ・クラヴィッツ)ら新しい仲間と友情を育み、教官エリック(ジェイ・コートニー)、フォー(テオ・ジェームズ)のスパルタ研修に耐え、初めての恋をするなど、青春を謳歌するのである。母親(アシュレイ・ジャッド)はそんな娘を心配し、時には会いにやってくる。無我夢中で頑張っているうちは分からなかったが、やがて彼女は、自分の所属先や、社会そのものの矛盾に気づき始める。兄ケイレブ(アンセル・エルゴート)が所属する【博学】の幹部ジェニーン(ケイト・ウィンスレット)は、いかにも胡散臭そうなインテリである。

DIVERGENT3.jpg 軍事・警察機能を持つ【勇敢】の研修は、厳しいを通り越してイジメに近い壮絶な内容だ。毎日の成績順位が貼り出され、脱落者にはダイバージェントのような無所属のホームレス生活が待っているから、足の引っ張り合いも日常茶飯事。いやー、まるで現代のブラック企業のようではないか。早々に脱落者候補になってしまったベアトリスが、いったいどんな能力を秘めているのかは謎だ。

DIVERGENT4.JPG 最初は近未来の管理社会下でのスポ根青春ドラマといった感じだが、巨大な陰謀が次第に若者たちの夢に影を落としてゆく。過去の歴史を十分すぎるほど学び、科学が恐るべき進歩を遂げても、人類の争いの種は尽きないのである。若者たちの頑張りが人類の未来を切り開いてゆく、テンポの良い爽快なSFアクション。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)



 
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2014年06月03日

『マダム・イン・ニューヨーク』お薦め映画

★★★★ 2012年製作 インド (134 min)
【監督】ガウリ・シンデー
【出演者】シュリデヴィ
アディル・フセイン(ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日)
メーディ・ネブー(スウィッチ、ワールド・オブ・ライズ、ミュンヘン)
プリヤ・アーナンド、アミターブ・バッチャン、ナヴィカー・コーティヤー、シヴァンシュ・コーティヤー
【あらすじ】インド。 二人の子供と多忙なビジネスマンの夫サティシュ、姑と暮らす主婦シャシの悩みは、家族の中で自分だけ英語ができないこと。 娘の学校の三者面談では、先生とまともに会話することもできない。 ある日、アメリカに住む姉マヌから、姪の結婚式の手伝いを頼まれ、しばらくニューヨークに滞在することになったのだが…。 ヒューマンドラマ。
フィルムフェア賞最優秀新人監督賞、IIFAインド国際映画批評家協会賞最優秀新人監督賞、Stardust Awards 最優秀監督賞・最優秀新人監督賞

『マダム・イン・ニューヨーク』象のロケット
『マダム・イン・ニューヨーク』作品を観た感想TB

画像(C)Eros International Ltd. All rights reserved.

vinglish1.jpg 【解説と感想】インドは、長らくイギリスの植民地であったことから、公用語は英語だった。インドは面積が広く人口が多く、多数の言語が存在するため、公的公用語は英語とヒンドゥー語だが、実際には州によってさまざまな言語が使われており、同国人間で意思疎通ができない場合がある。とはいえ知識層なら英語は「出来て当たり前」らしい。

vinglish2.jpg 本作の主人公シャシ(シュリデヴィ)は専業主婦。家族の中で彼女だけが英語ができない。夫に「一目ぼれ」されて早くに結婚した彼女は、進学も就職もしなかったのかもしれない。PTAに行くと、他のママからは当然のように英語で話しかけられる。教師の方は逆にヒンドゥー語が苦手だから、シャシとは半分も話が通じない。そんな母を、幼い息子はからかい、思春期の娘は恥じている。

シュリデヴィ(50歳)はボリウッド映画の元トップ女優で、本作が15年ぶりの女優復帰作だという。カレーの香辛料のように歌、踊り、恋愛、アクション等いろんな内容が盛り込まれ、絶世の美女が登場するいわゆるマサラムービーは日本でも人気だが、私は中年女性が主人公のインド映画を初めて見た。若い女性にはないミセスのお色気と優雅さがあり、匂うような美しさ。本編で年下のフランス人男性ローラン(メーディ・ネブー)に「一目ぼれ」されるのにも納得だ。

本作は、まだまだ社会的地位の低い女性の葛藤をソフトなテーマにしている。男女不平等は、欧米ならもう過去のことと思われるかもしれないが、案外そうでもないようだ。日本だって実はまだまだだろう。ましてやインドにはカースト制度が根強く残っている。女性の社会進出を阻むハードルは多いのだ。シャシは「(女として愛されるのは嬉しいが、まず人として)ちゃんと尊重して欲しい。」と強く望む。ちなみに本作の監督も女性。歌や踊りは少ないが、万人受けする楽しいストーリーの中に、社会や夫婦間の意識改革を促すメッセージが込められている。

vinglish3.jpg ハンサムなシャシの夫サティシュ(アディル・フセイン)は恐らくエリート・ビジネスマン。シャシを愛しているが、仕事の打ち合わせ中に「アナター、聞いて聞いて! 今日ねー、私のお菓子が大好評だったのよぉー。」なんて電話がかかってくると、鬱陶しく感じてしまう(当然だが)。シャシはお勤めをしたことがないから、わからないのかも。だが彼は妻が本格的に働くことには反対だ。菓子作りは小銭稼ぎ位にしておけよ、働く必要なんかないし、料理の腕は家族のために発揮すればいい、と言わんばかり。その意識は、妻には家事育児を優先し仕事はパート程度にして欲しいと望む、一昔前の(または今も続いている)日本人男性の考え方と全く同じであることに笑ってしまった。

vinglish4.jpg もう一つのソフトなテーマは、インド人としての誇り。空港や飛行機内の会話にはクスッと笑わせられる。英語ができないと不便なので勉強はするけれど、アメリカにヘイコラなんかしないよ! という気概が感じられる。服装も、ニューヨークへ来たからって気軽にナマ足を見せたりせず、民族衣装サリーで押し通す。なぜなら、それが一番彼女に似合っていて美しいから。インド人にとって、インドが世界で一番なのは当然だ。

英語の国アメリカにも英語がまともに話せない人は多いようだ。今も世界中から移民がドッサリやって来ているのだから当たり前か。シャシが通う英語学校の生徒たちの仲間意識は、“人種のるつぼ”アメリカへやって来た新参者同士の連帯感とも言える。こうして「ニューヨーカー」になっていくのだろう。

インドのチャーミングな中年女性が、ニューヨークで新しい自分を見つけるハッピーな物語。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)



 
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