2015年02月25日

『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』お薦め映画

★★★★★ 2014年製作 米 (115 min)
【監督】ジョン・ファブロー(アイアンマン、ザスーラ、アイアンマン2、カウボーイ&エイリアン
【出演者】ジョン・ファブロー(ルディ 涙のウイニング・ラン、恋愛適齢期、ウルフ・オブ・ウォールストリート、ウィンブルドン)
ソフィア・ヴェルガラ(WILD CARD/ワイルドカード、ジゴロ・イン・ニューヨーク、フォー・ブラザーズ 狼たちの誓い)
ジョン・レグイザモ(スポーン、ムーラン・ルージュ、アサルト13 要塞警察、ビッグ・マネー)
スカーレット・ヨハンソン、ダスティン・ホフマン、オリバー・プラット、エムジェイ・アンソニー
【あらすじ】アメリカ・テネシー州の都市ブレントウッド。 10年前からレストランの総料理長を務めるカール・キャスパーは、人気フード・ブロガーであるラムジーの辛辣な批評に激怒し、慣れないツイッターで公然とラムジーにケンカを売ってしまう。 店を辞めたキャスパーは、元妻イネズ、10歳になる一人息子パーシーと旅行に行ったマイアミで本物のキューバサンドイッチの旨さに驚き、その移動販売を思いつく…。 ハートフルストーリー。
トライベッカ映画祭観客賞

『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』象のロケット
『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』作品を観た感想TB

chef1.jpg 【解説と感想】本作の主人公は、人気レストランの総料理長カール・キャスパー(ジョン・ファヴロー)。店のオーナー(ダスティン・ホフマン)は安定経営主義で、目新しい創作料理は好まない。だから人気フード・ブロガーのラムジー・ミシェル(オリバー・プラット)が来店した時も、カールは新作料理を披露したかったが、結局は珍しくも何ともない定番メニューを出すこととなった。

雇われている以上、オーナーや上司の命令は聞かなければならない。ラムジーのブロガーとしてのプロ意識は高く、ただ食べ歩きの感想を書き散らしているだけではないことも後でわかる。店のオーナーは常連客を大事にしており、一過性の人気に左右されたくないと思っているから、ブログの評判はあまり気にしない。3人の男それぞれが、信念を持って仕事をしている。

chef2.jpg ブログの評価から始まった騒動で店を辞めたカールは、元妻イネズ(ソフィア・ベルガラ)、10歳になる一人息子パーシー(エムジェイ・アンソニー)と、マイアミへ旅行に行った。そこで食べた本物のキューバサンドイッチの旨さに驚き、その移動販売を思いつく。長年のスタッフであるマーティン(ジョン・レグイザモ)と息子を助手に、古いフードトラック(つまりは屋台)でキューバサンドを売りながら、アメリカ大陸を横断することに。今、アメリカ西海岸で人気だというフードトラックを使った、ユニークなロード・ムービーだ。

chef3.jpg カールのキューバサンドイッチ、絶品である。食べなくても見れば分かる。鑑賞中、あなたもアツアツのキューバサンドを頬張りたくなるに違いない。作り方も全部分かったような気になるが、この三ツ星フードトラックと同じ味が出せるだろうか。狭いトラックの中は和気あいあいとしていて、雇われシェフの頃よりずっと楽しそう。しかし彼は、その気になればどんな料理だって作れる一流シェフなのだ。このままサンドイッチ一本で行くのだろうか…?

息子に「俺は料理しか能のない男だ」と語るように、カールは料理一筋の仕事人間。おかげで妻子を顧みる余裕がなく離婚した。しかし私は、カールのような仕事人間に拍手を送りたい。女性好みの趣味がなくても、電話やメールがマメじゃなくても、家事や日曜大工が苦手でも、風呂に入るヒマがなくても、いいじゃないか。遊ぶヒマもなく一生懸命仕事してるなんて、男の鑑。パパが真面目に働く姿を見て、子はまっすぐ育つのだよ。なーんて思った私、トシかなぁ…。

chef4.jpg ブロガーの評価、ツイッターでのケンカ、移動トラックの位置情報発信など、良くも悪くもSNS(ソーシャルネットワーク)が大いに活用されており、SNSなしでは成り立たない物語である。アナログ人間の髭もじゃカールに比べ、愛くるしい息子パーシー君の入力操作の手早いこと。最初は面白半分に手伝っていたパーシー君だが、この旅を通して、パパの仕事への情熱と生きる姿勢を理解したことは間違いない。

人生何が転機になるかわからないもの。フードトラックでの旅は、仕事でも家庭でも評判を落としてしてしまったカールに、原点に立ち戻ることを教えてくれた。料理しか能のない男が、激ウマサンドで起死回生を図る、美味しいハートフル・ストーリー。お薦め作品だ。
(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
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2015年01月22日

『娚の一生』お薦め映画

★★★★ 2014年製作 日 (118 min)
【監督】廣木隆一(ストロボ・エッジ、恋する日曜日、機関車先生、だいじょうぶ3組
【出演者】
榮倉奈々(檸檬のころ、図書館戦争、MIRACLE デビクロくんの恋と魔法、阿波DANCE)
豊川悦司(大停電の夜に、ハサミ男、今度は愛妻家、顔)
向井理(小野寺の弟・小野寺の姉、僕たちは世界を変えることができない。But, We wanna build a school in Cambodia.、ガチ☆ボーイ、百瀬、こっちを向いて。)
安藤サクラ、前野朋哉、落合モトキ、根岸季衣
【あらすじ】都会での仕事と恋に疲れ田舎の祖母の家に身を寄せていた堂園つぐみ。 ところが祖母の死後、祖母から鍵を預かっていたという中年男・海江田醇(じゅん)が、勝手に離れに住み始める。 祖母の教え子で大学教授だという海江田は「つぐみと結婚する予定だ。」と周囲に当たり前のように話し、つぐみを驚かせる…。 ラブ・ストーリー。
原作:西炯子(コミック) 主題歌:JUJU『Hold me, Hold you』

『娚の一生』象のロケット
『娚の一生』作品を観た感想TB

画像(C)2015 西炯子・小学館/「娚の一生」製作委員会

isshou1.jpg 【解説と感想】本作は郷里の九州(おそらくは鹿児島県出水市近辺)に帰ってきた若い女(原作では30代半ばという設定)堂園つぐみ(榮倉奈々)と、京都生まれの50代男性・海江田醇(豊川悦司)の恋愛話で、原作は西炯子のコミック。鑑賞後に読んでみたら、柱はもちろんラブストーリーであるが、親に恵まれない子の話、原発から地熱発電へのチェンジ(映画には登場しない)、キャリア女性の働き方チェンジ(映画には登場しない)、不倫を繰り返してきた女の恋愛チェンジ、大いなる地元愛(映画では控えめ)、と盛りだくさんで、足なめシーンが評判になった割に、ラブシーンは少なかった。ちなみにコミックは全4巻だが、書店によっては品切れで全巻揃っていない店もあったので、相当売れているようである。

大学教授である海江田は、昔大学で講師をしていたつぐみの祖母に惚れていたらしい。海江田と祖母では相当な年の差があり、何かあったのなら親族一同にとってもショックな話だ。祖母の家の離れに勝手に住み始め、つぐみと結婚するつもりだと周囲に言いふらす海江田は、場合によってはストーカーとして逮捕されてもおかしくない。哲学が専門で自由な発想の持ち主である海江田が祖母に惚れたのは、どうやら彼の生い立ちにも関係がありそうだ。

isshou2.jpg 一方つぐみは、会社では出世コースをひた走っていたようだが、恋愛の相手は妻帯者ばかり。出来る女性は成長前の年下男に走る傾向もあるが、自分と同じような出来る男を選ぶと、必然的に妻子持ちになってしまうことも多々ある。彼女が郷里に帰ってきたのに実家に戻らず祖母の家に滞在しているのは、不倫で傷ついた心を癒すためだ。ところが海江田は祖母の元カレだったかもしれない男。独身だと言っているがそんな話はあてにならない。不倫より更にディープな背徳の香りが漂ってくる。わあ、大人のコミックっていいなあ。

オッサン好きな女子のことを今は“枯れ専”といい、ファザコン娘はその傾向が大いにあるという。年上男性との不倫もその延長線にあるのではないだろうか。頼りない草食男子はイヤ、ガツガツした肉食男子もイヤ、でも臭い脂ぎったダサいオヤジは対象外。枯れてもカッコよくて頼りがいのある、昔でいえばロマンスグレーのオジサマが人気なのだ。しかし“枯れ専”って呼び方で、オジサマ方が最も気にする枯渇状態を連想してしまうのは、私だけだろうか。“枯れ専”女子自身は、決して枯れていないような気がするが…。

isshou3.jpg 榮倉奈々も豊川悦司も、スタイル抜群。つぐみの長い生足の美しさ、海江田のハダシに下駄のカッコよさは、この二人だからこそ表現できたといえる。抜群のキャスティングだ。そして話題のセクシーシーンはピカイチで、脱がなくてもこんな表現の仕方があるのかと感心した。原作をはるかに超えている。ぜひ楽しんで頂きたい。薪で風呂を沸かすような田舎屋敷で、若い美女とダンディオジサンがのどかな共同生活を営む夢のようなラブコメディ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
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2014年12月17日

『百円の恋』お薦め映画

★★★★★ 2014年製作 日 (113 min)
【監督】武正晴(イン・ザ・ヒーロー)
【出演者】安藤サクラ(0.5ミリ、かぞくのくに、今日子と修一の場合、愛のむきだし)
新井浩文(青い春、近キョリ恋愛、血と骨、BOX 袴田事件 命とは)
稲川実代子(ハラがコレなんで)
根岸季衣、早織、宇野祥平、坂田聡
【あらすじ】32歳の斎藤一子は働きもせず実家に引きこもってゲーム三昧の毎日を送っていた。 ある日、離婚して実家に戻っていた妹・二三子と大ゲンカになり、一子がアパートで独り暮らしをすることに。 行きつけの100円ショップで深夜のアルバイトを始めた一子は、近くのボクシングジムで練習する中年男・狩野からデートに誘われる。 なぜ自分を誘ったのかと聞くと、情けない返事が返ってきた…。 ラブ・ストーリー。

脚本:足立紳(第一回松田優作賞作品) 主題歌:クリープハイプ『百八円の恋』

『百円の恋』象のロケット
『百円の恋』作品を観た感想TB

画像(C)2014東映ビデオ

100yen1.jpg 【解説と感想】女優・安藤サクラは、素顔はおしとやかなお嬢さんかもしれないのに、映画の中では図々しくて品のない女を演じることが多い。もちろん演技であることは分かっているが、イヤ〜な女や変な女が、妙に似合っている。脱ぎっぷりもいい。女優イメージを全然気にしないのかなと、前々から気になっていた。少し前の「0.5ミリ」も良かったが、今作では更にパワーアップしている。

本作の主人公・一子(安藤サクラ)は、実家の弁当屋を手伝いもせず、タバコをフカしながらゲーム三昧。ボサボサ頭の、だらしないグータラ娘である。出戻りの妹(早織)とケンカして家を出ることになり、彼女は32歳で初めての一人暮らしをすることになった。

余談だが、年頃の娘や息子を早く結婚させたいなら、一度一人暮らしを経験させると良いのだという。一人ぼっちの寂しさや不経済さが身に染みて、真剣に結婚を考えるらしい。厳しい門限もないし、友人も招きやすく、異性との付き合いも進展しやすいのだとか。

100yen2.JPG 一子の場合も、全くその手順通りにコトは進む。まずは家賃を払わねばならないから、一子は行きつけの100円ショップでアルバイトを始める。面接も採用も簡単すぎて笑ってしまう。そして、徒歩圏内のアパートと職場の間で(たぶん彼氏いない歴32年の彼女が)、これまた簡単に男を見つけてしまう。相手は中年ボクサーの狩野(新井浩文)で、100円ショップの常連。狩野が一子をデートに誘った理由は「断られなさそう」だったから。お手軽な百円の恋は、こうして始まった。

高嶺の花の美人より十人並みの女の方がモテるという。一子は同僚のオッサンにも言い寄られる。相手も別に一子じゃなくてもいいけれど、落としやすそうだから誘ったというのがアリアリ。一子はスキだらけで、敷居が低そうに見えるのである。

100yen3.JPG 勤務先では「他に働く奴はいくらでもいる。」というようなことを言われ、男からも「女なら誰でもいい」みたいな、残念な扱いをされている一子だが、後半、アッと驚く変身を遂げる。今まで何一つ頑張ったことがなかったのに、恋より夢中になれるものを見つけるのである。男にもしがみつかなかった一子が、それには食らいついて食らいついて離れない。

いやはや、驚いたのなんの! 映画の中の一子にも、そして演じている安藤サクラにも、私は感動してしまった。そりゃー、そのトシでそんなことそこまでやらなくてもと思うけれど、ボロボロになっても立ち上がる姿は、見苦しくて美しくて可愛らしい。自他共に認めるサエない女の価値もグーンとアップ! なりふり構わず頑張る一子を、ぜひ映画館で応援して欲しい。トコトン闘う女のドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
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2014年12月02日

『ゴーン・ガール』お薦め映画

★★★★★ 2014年製作 米 (149 min)
【監督】デヴィッド・フィンチャー(ドラゴン・タトゥーの女、ベンジャミン・バトン 数奇な人生、ファイト・クラブ、ソーシャル・ネットワーク)
【出演者】ベン・アフレック(ランナーランナー、アルゴ、ペイチェック 消された記憶、偶然の恋人)
ロザムンド・パイク(アウトロー、プライドと偏見、17歳の肖像、ドゥーム)
ニール・パトリック・ハリス(マイフレンド、クララ)
タイラー・ペリー、キャリー・クーン、キム・ディケンズ、パトリック・フュジット
【あらすじ】アメリカ・ミズーリー州の田舎町。 幸せな結婚生活を送っていた夫ニックと妻エミリーの結婚5周年の記念日に、突然エイミーが姿を消した。 リビングには争った形跡があり、キッチンからはエイミーの大量の血痕が発見された。 警察は他殺と失踪の両方の可能性を探るが、次第にアリバイが不自然なニックへ疑いの目を向けていく…。 サスペンス。
原作・脚本:ギリアン・フリン

『ゴーン・ガール』象のロケット
『ゴーン・ガール』作品を観た感想TB

画像(C)2014 Twentieth Century Fox All rights reserved.

gonegirl1.jpg 【解説と感想】都会では隣人の名前や顔すら知らない場合もあるが、小さな町では家庭内のありとあらゆることをご近所さんが知っている。それでも仲良し夫婦が突然離婚することもあるから、内情は外からは窺い知れないものだ。何か事件が起こった時のご近所の証言と言うのはアテにならないし、根も葉もない噂が広がっていく。

gonegirl2.jpg 本作は妻の失踪をめぐるサスペンスである。夫ニック(ベン・アフレック)の妻エミリー(ロザムンド・パイク)が、5回目の結婚記念日に失踪した。自宅に大量の血痕が残されていたことから、ただの家出ではないことがわかる。一見仲睦まじかったが、実はそうではなかったことが発覚し、夫に不利な状況になっている。妻は夫に嫌気が差して家出したのかもしれない。あるいは夫婦ゲンカの果てに、夫が妻を殺してしまったのかもしれない。
妻は両親が書いた絵本の主人公として、子どもの頃から有名人だったため、マスコミの報道は過熱し、夫婦の実態がとことん暴かれていく。

gonegirl3.jpg 自宅にいる時間が少ない現代人は、睡眠時間を除くと、家族より学校や職場の仲間と過ごす時間の方が長いかもしれない。たとえ24時間一緒にいたとしても、家族や夫婦が考えていることは同じではない。妻や夫が今一番熱中していることや不平不満を、どれだけの人が把握しているだろうか。

gonegirl4.jpg アメリカ中を巻き込んだ失踪劇は、途中から夫ニックと妻エミリーの現在がリアルタイムでわかるような描き方に切り替わる。観客は誰がこの事件を企んだのかを知ることになるが、犯人の目的は今一つはっきりしない。一体この夫婦はどうなってしまうのか? ホラーよりずっと怖い、大変な結末である。ぜひあまり情報収集をせずに見て頂きたい。

gonegirl5.jpg 人は見かけによらない。そして家族の前でもある程度は仮面を被っている。人間不信になりそうな物語だ。結婚前のあなたは、今一度、相手の本性を確認したくなるだろう。パートナーのいるあなたは、この夫婦の二の舞とならぬよう慎重になるだろう。もうここまで来ているというあなたは…、ご愁傷様である。

相手にだけ罪を被せてはいけない。必ず両方に非がある。どうしてこんなことになってしまったのか、どうすればこうならなかったのか、よくよく考えてみて欲しい。唖然とさせられる結婚悲劇スリラー。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
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2014年11月07日

『紙の月』お薦め映画

★★★★ 2014年製作 日 (126 min)
【監督】吉田大八(桐島、部活やめるってよ、パーマネント野ばら、クヒオ大佐)
【出演者】宮沢りえ(たそがれ清兵衛、華の愛、オリヲン座からの招待状、ぼくらの七日間戦争)
池松壮亮(バンクーバーの朝日、ダイブ!!、半分の月がのぼる空、大人ドロップ)
大島優子(映画 闇金ウシジマくん、櫻の園、スイートリトルライズ、さんかく)
小林聡美、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司
【あらすじ】1994年。 夫と二人暮らしの梅澤梨花は「わかば銀行」の契約社員で、職場では高い評価を受けていた。 ふとしたことから、梨花は裕福な顧客・平林の孫で、大学生の光太と逢瀬を重ねるようになる。 買い物途中、預かり金から1万円借りてしまったことをきっかけに、彼女は銀行の金を横領し始めた。 その額は、日増しにエスカレートしてゆくが…。 サスペンス。
原作:角田光代『紙の月』 主題歌:ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ『Femme Fatale』

『紙の月』象のロケット
『紙の月』作品を観た感想TB

画像(C)2014「紙の月」製作委員会

kami1.jpg 【解説と感想】時代は、バブル崩壊後の1994年。わかば銀行の契約社員・梅澤梨花(宮沢りえ)は、夫(田辺誠一)と二人暮らしで、子どもはいない。金持ちではないが、穏やかで不自由のない生活を送っている。夫からはあまり構ってもらえていないが、働き盛りのサラリーマンなんて、普通はそんなものだろう。そんな、そこそこ幸せな女が、顧客の金に手を付けてしまう。原因は年下の男・平林光太(池松壮亮)と不倫関係に陥ったためだ。

kami4.jpg 「お堅い」「真面目な」「道を踏み外さない」イメージの銀行員。中堅行員の隅(小林聡美)は、それを絵に描いたような社員。彼女のような銀行員は、日本経済の縁の下の力持ちだ。だがバブル崩壊後は仕事の出来るベテラン社員が、経費削減の下にないがしろにされるようになった。一方、「自分の金でない大金」を扱う銀行員のストレスを、若い窓口係・相川(大島優子)が吐露する。自分はカネの誘惑に負けてしまいそうだと。私はそこのところが気になって元銀行員の友人に確認してみたのだが、「どんな大金でも、自分とは関係ない、ただの紙切れとしか思えなかった。」と言っていた。彼女は清廉潔白な銀行員の鑑である。

kami3.jpg 1円でも金額が合わなければ大変なことになる銀行で、現金や書類の確認が厳しいのは当たり前。加えて、彼らは同僚のちょっとした変化も見逃さない。女性同士の勘繰り目線は鋭くて見応えがあるし、それぞれの生き方や考え方も、非常に興味深い。登場する女子行員の中で、あなたが一番賢いと思うのは誰だろうか? 

kami2.jpg 夫に従順な地味で堅実な主婦なんて、美しすぎる宮沢りえには似合わない。彼女が主婦と言う仮面を捨て美しく羽ばたいていく様子こそ、観客が観たい彼女なのだ。しかし、主婦の梨花も横領行員の梨花も、結局は無理をしている。少女時代の回想シーンで、金以外の力で物事を解決する方法や気持ちの持ち方を学ぶチャンスがあったのに、梨花は身につけられなかったことが分かる。このとき道徳教育が功を奏していたら、男のため金のためではなく、世のため人のために働く女性になっていたかもしれないのだが。

ところで、家にいるから奥さんと言う。女が外に出るとロクなことにならないと、昔は言われていた。妻が稼げば夫がダメになる、洋服代や外食費が増えるだけ、贅沢になって意外と貯金が出来ない、家事がおろそかになりケンカになる、夫婦どちらも浮気に走ってしまうとか、散々な言われようだった。今、女性にそんなことを言えばセクハラになってしまうが、多少頷けるところ無きにしも非ず、である。

kami5.jpg 梨花の夫と浮気相手を比べてみると、夫の方がイイ男なのは明らかで、この夫には何も非がないから気の毒である。年下男・光太は、大金を貢ぐほどの男ではない。のぼせ上がるほどの男ではない。だが、男女問わず浮気なんてそんなもの。浮気も犯罪も、一度始めたらもう後戻りできないような気がしてくるのかもしれない。梨花が帳尻合わせに苦心し、横領に没頭していく姿はスリリングだ。

大から小まで、横領事件は後を絶たない。金で変わっていく男女関係、顧客が騙される過程、銀行員の対応など、人間観察が非常に面白い、お薦め作品だ。
(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
posted by 象のロケット at 19:34| Comment(0) | TrackBack(10) | 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする