2015年08月24日

『クーデター』お薦め映画

★★★★ 2015年製作 米 (103 min)
【監督】ジョン・エリック・ドゥードル(デビル)
【出演者】
オーウェン・ウィルソン(ミッドナイト・イン・パリ、エネミー・ライン、ダージリン急行、マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと)
レイク・ベル(ミリオンダラー・アーム、ベガスの恋に勝つルール、恋するベーカリー 別れた夫と恋愛する場合、抱きたいカンケイ)
ピアース・ブロスナン(サバイバー、007/ダイ・アナザー・デイ、テイラー・オブ・パナマ、ダンテズ・ピーク)
スターリング・ジェリンズ、クレア・ギア
【あらすじ】東南アジア某国へのインフラ整備支援事業のため、妻と幼い娘2人を伴い赴任したジャック。 ところがクーデターが勃発し、平和な国は一変。 「外国人を殺す。 捕虜は取らない。 皆殺しだ!」との怒号が響き渡り、政府と外国人をターゲットとした殺戮が開始された。 多くの外国人が滞在していたホテルは、暴徒と化した国民に取り囲まれてしまう。 ジャックは何とか妻子を守ろうとするが…。 サスペンス・アクション。

『クーデター』象のロケット
『クーデター』作品を観た感想TB

画像(C)2015 Coup Pictures, LLC. All rights reserved.

noescape1.jpg 【解説と感想】夏休み、家族で海外旅行に行かれた方も多いことだろう。楽しい思い出づくりになる反面、飛行機事故や、テロ、無差別殺人、またはMERS(マーズ)ウイルスに感染したり、盗難や自然災害に遭ったりなど、旅に危険はつきものだ。

本作の舞台は、東南アジアの某国。アメリカ人ジャック(オーウェン・ウィルソン)は、妻(レイク・ベル)と幼い娘2人を連れ、水道関係の支援事業のため赴任してきた。ところが翌朝クーデターが勃発し、滞在中の外国人の皆殺しが始まる。ジャック一家が泊まっているホテルは外国人客が多いため、暴徒に囲まれてしまう。

noescape2.jpg まず怖いのは、来たばかりの外国人には何が起こったのかサッパリわからないこと。ホテルに英字新聞が届かないのでジャックは市場まで買いに行く。だが、新聞はどこにもなく、街の様子が何だかおかしいことだけが分かる。まだクーデター情報が各方面に伝わっていないためだ。現地の言葉が分からないジャックには、人々が血相を変えて叫んでいる内容も理解できない。英語を話せる人は多いはずだけれど、向こうは全外国人が敵だと思っている。扇動された殺人者たちは、文字通り「皆殺し!」を仕掛けてくる。

とにかく家族を守らなければならない。ジャックは元特殊部隊でもスパイでもなく、ごく普通の会社員。腕力では武器を持った暴徒に敵わないから、逃げるしかない。とはいえ、昨日到着したばかりで道も知らず、どこへ行けばいいのかも分からない。見つかれば即刻殺されてしまう。一家がまず考えたのは、アメリカ大使館を探すことだった。

noescape3.jpg 現地で出会った、妙に馴れ馴れしい胡散臭いアメリカ人男性(ピアース・ブロスナン)は、クーデターは自分たちのせいだと言わんばかり(後で007を思い起こさせるシーンあり)。世界を動かす大国アメリカへの皮肉が込められている。そう言われても支援事業とクーデターの関係を深く考えているヒマはなく、ジャックたちはとにかく逃げる。どこへ行っても襲われる。金髪の白人は目立ってしょうがない。幼い娘たちは可愛いが手がかかる。自分の命に代えても子どもたちを守らなければと、パパとママは通常なら考えられないほどの頑張りを見せてくれる。オーウェン・ウィルソン、本当に優しくてお人好しな普通の父親に見える。他の作品でもお人好しに見えるが、本当はそうじゃないのなら、名演技だ。果たして一家は助かるのだろうか?

雨あられのような銃弾の中、ひたすら隠れ、逃げ続ける。シンプルなストーリーだが、もし海外旅行や海外赴任中にこんなクーデターやテロが起こったらと考えると、ちょっと心配になってくる。殺害はされなくても拘束され、しばらく帰国できないかもしれない。私たちも遭遇する可能性はゼロではない絶体絶命のサバイバル・スリラー。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
posted by 象のロケット at 21:50| Comment(0) | TrackBack(5) | 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月25日

『ナイトクローラー』お薦め映画

★★★★★ 2014年製作 米 (118 min)
【監督】ダン・ギルロイ
【出演者】
ジェイク・ギレンホール(エンド・オブ・ウォッチ、プリンス・オブ・ペルシャ 時間の砂、ムーンライトマイル、ZODIAC)
レネ・ルッソ(身代金、ティン・カップ、トーマス・クラウン・アフェアー、ビッグ・トラブル)
リズ・アーメッド、ビル・パクストン
【あらすじ】学歴もコネもなく仕事にあぶれていた男ルーは、たまたま事故現場を通りかかる。 そこにいたのは「ナイトクローラー」と呼ばれる、報道スクープ専門の映像パパラッチだった。 早速ビデオカメラを手に入れたルーは、警察無線を傍受しながら事件や事故の発生を待ち、猛スピードで車を走らせて現場に駆け付ける。 過激な映像は高く売れたが、局の要求はさらにエスカレートしていく…。 サスペンス・スリラー。

『ナイトクローラー』象のロケット
『ナイトクローラー』作品を観た感想TB

画像(C)2013 BOLD FILMS PRODUCITONS, LLC. All rights reserved.

nightcrawler1.jpg 【解説と感想】真面目な報道がある一方で、マスコミの「フライング」や「ヤラセ」、「不自然な沈黙」、「情報操作」等への疑念も拭えない。先日、選挙権年齢が18歳に引き下げられることが決まった。報道を鵜呑みにしてはいけないと、小学生の頃から教えておくべきだろう。しかし、根拠のない噂話も、ニュースで取り上げられると信じてしまうのが人情。嘘と真実を見分けることは、大人であっても難しい。

nightcrawler3.jpg 本作の主人公ルイス(ジェイク・ギレンホール)は、芸能ネタではなく、事件・事故現場を撮影し、その映像をテレビ局に売って稼ぐフリーカメラマン(通称:報道パパラッチ“ナイトクローラー”)。まずはジェイク・ギレンホールの、ギスギスギラギラした容姿に驚かされた! 役作りのため12キロ減量し、昼夜逆転の生活を続けたのだという。失業中で食うや食わずの生活を送っていたルイスは、偶然遭遇したカメラマンの真似をして写真を撮り、テレビ局へ売り込みに行く。経験もツテもないのに、大した度胸である。

nightcrawler5.jpg 世の中には、ハッタリをかまし前へ前へ出て成功する人と、怖気づいて後ずさりし川へ落ちてしまう人がいる。明らかにルイスは前者で、私は後者だ。ルイスの見上げた根性はハングリー精神に裏打ちされている。盗みや不法侵入、ヤラセなんて朝飯前。罪悪感なんか感じない。生きるためには何だってやってやると腹をくくっている。不屈の闘志とサバイバル能力は買うが、決してお近づきにはなってはいけない。利用されて後悔するだけ…ああ、そんなふうに考えるから、私は川へ落ちてしまうのだ!

nightcrawler2.jpg ルイスの、テレビ局の女性ディレクター、ニーナ(レネ・ルッソ)への態度は図々しく、部下のリック(リズ・アーメッド)への態度は尊大。とんでもないパワハラ&セクハラ野郎である。たとえ成功したとしても、ずっと彼は一匹狼だろう。いや、それ以前に、逮捕されてしまうのではないか? とまあ、主人公のイヤな面ばかりが目についてしまうが、ストーリーは文句なしに面白い! 

警察の無線をキャッチして、深夜のロサンゼルスを走り回るナイトクローラーたちは、餌に群がるハイエナ。まるで報道パパラッチの密着ドキュメンタリーを見ているようだ。死者や怪我人に敬意を払うことなく、嬉々としてカメラを回すルイスの顔は、ホラー映画の殺人鬼よりイカれている。スマホで撮影し送信できる今は、誰でもがパパラッチになり得る時代。ひょっとして、私たちもこんな顔になっていやしないだろうか?

nightcrawler4.jpg テレビ局のアナウンサーはあらかじめ、過激なスクープ映像を見るか見ないかは“自己責任”だと警告してから映像を流す。興味本位でそれを見ている視聴者も、撮ったモン勝ち、放送したモン勝ちのパパラッチ世界を助長させていることになる。ここまで割り切らなければ、生き残れないのだろうか? いやいや、ルイスには必ず天罰が下るはず、彼の末路は哀れなものに違いないと、あなたは期待するかもしれない。彼がどうなるのかについては、ぜひ劇場でご確認を。テレビ業界の裏側を覗いているうちに、人間の本性を見せられているような気になってくるサスペンス・スリラー。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
posted by 象のロケット at 20:34| Comment(0) | TrackBack(7) | 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月02日

『海街diary』お薦め映画

★★★★★ 2015年製作 日 (126 min)
【監督】是枝裕和(誰も知らない、花よりもなほ、ワンダフルライフ、幻の光)
【出演者】
綾瀬はるか(おっぱいバレー、映画 ひみつのアッコちゃん、八重の桜 NHK大河ドラマ、万能鑑定士Q モナ・リザの瞳)
長澤まさみ(世界の中心で、愛をさけぶ、タッチ、そのときは彼によろしく、潔く柔く(きよくやわく))
夏帆(天然コケッコー、うた魂♪、きな子 見習い警察犬の物語、小さき勇者たち 〜ガメラ〜)
広瀬すず、大竹しのぶ、堤真一、加瀬亮
【あらすじ】鎌倉に住む三姉妹(長女・幸、次女・佳乃、三女・千佳)のもとに、父の訃報が届く。 15年前に父は家族を捨て、その後、彼女たちの母は再婚して家を去って行った。 父の葬儀で、三姉妹は腹違いの妹すずと出会う。 三姉妹の父を奪ったすずの母は既に他界しており、中学生のすずは、父の3度目の妻である義母と暮らしていた。 幸はすずに、鎌倉で一緒に暮らさないかと声をかける…。 ヒューマンドラマ。
原作:吉田秋生

『海街diary』象のロケット
『海街diary』作品を観た感想TB

画像(C)2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

umimachi1.jpg 【解説と感想】「海街Dairy」は、鎌倉の古くて広い一軒家で暮らす四姉妹の物語。看護師の長女・幸(綾瀬はるか)、銀行員の次女・佳乃(長澤まさみ)、スポーツ店勤務の三女・千佳(夏帆)の父親は、15年前に女を作り家を出て行った。浮気相手はすずという娘を産んだが病死し、父は3回目の結婚をした後に病死した。それを機に、中学生の四女すず(広瀬すず)は、義母と暮らす家を出て、腹違いの姉3人と暮らすことになった。一方、三姉妹の母・都(大竹しのぶ)は、父が家を出た後すぐ、幼い娘たちを祖母に託し、再婚して家を出てしまっている。

他にも大叔母(樹木希林)、食堂店主(風吹ジュン)など、様々な年代の女性たちが登場する。彼女らと男性(堤真一、坂口健太郎、加瀬亮、池田貴史、鈴木亮平、前田旺志郎、リリー・フランキー)との関係はどれもアッサリしていて、大きなトラブルも、極悪人も登場しない。

上の三姉妹は、ずっと鎌倉で暮らしてきた。すずも東北の海辺の町で育った。彼女たちは大らかで、小さなことにこだわらない。ずっと同じ顔ぶれの地元の人たちとの関係も良好。観光地ではない美しい海辺の街・鎌倉の魅力があふれている。住んでみたいと感じる方も多いだろう。海を見るとホッとする、昭和のような暮らし方が懐かしい、街の風景で心が和む、心地よい映像だ。

umimachi2.jpg 女同士だから男の話も平気でするし、余計な口も出す。ぶつかりながらワイワイ楽しくやっている、みな、いい子たちだ。なぜいい子なのかというと、大人の勝手な都合によって環境が変わるという体験をしたからである。それでグレる子もいれば、逆にしっかりし過ぎてしまう子もいる。ちょっと年寄りくさいところがあるのも、ついつい相手を気遣ってしまうのも、そのせいだ。四姉妹は“大人の事情”を理解し、誰のことも恨んでいない。そして、自分たちの力で親不在の“家庭”をしっかり築き上げた。自分では、それが特別なことだと気付いてはいないだろう。

umimachi3.jpg 若い女性中心のホームドラマは新鮮だ。しっかり者の幸、男運の悪い佳乃、マイペースな千佳、サッカーが得意なすず、それぞれが魅力的で、彼女たちの姉妹ゲンカも、恋も、普通っぽいファッションも見ていて楽しい。特に、年の離れた腹違いの姉たちと暮らすことになった葛藤を全身で表現する、広瀬すずの演技が印象的だ。何よりカワイイ!

血縁は切っても切れないほど強いが、家族が同じ形態で暮らせる期間は短い。近い将来、誰かが家を出る日までしか、この女子寮のような暮らしは続かない。だが、姉妹の温かい関係は、きっとずっと続いていくだろう。若い女性の悩みや葛藤を描いた、爽やかな家族の物語。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
posted by 象のロケット at 11:19| Comment(1) | TrackBack(8) | 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月19日

『映画 ビリギャル』お薦め映画

★★★★ 2015年製作 日 (117 min)
【監督】土井裕泰(いま、会いにゆきます、麒麟の翼 劇場版・新参者、涙そうそう、ハナミズキ)
【出演者】
有村架純(ストロボ・エッジ、阪急電車 片道15分の奇跡、JUDGE ジャッジ、あまちゃん)
伊藤淳史(フィッシュストーリー、ボクたちの交換日記、歓喜の歌、西遊記)
野村周平(日々ロック、江ノ島プリズム、スープ 生まれ変わりの物語、天国からのエール)
あがた森魚、安田顕、吉田羊、田中哲司
【あらすじ】名古屋の高校2年生さやかは、成績を心配する母に勧められ学習塾へ通うことに。 塾教師の坪田は、金髪パーマ、厚化粧にピアス、ミニスカートにへそ出しというギャル全開の姿で現れたさやかに面食らうが、夢は大きくと慶應大学(偏差値70)を志望校にすることを勧める。 さやかの学力は小4レベルで成績は学年ビリ(偏差値30)だったのだが…。 実話から生まれた、大学受験青春ドラマ。

『映画 ビリギャル』象のロケット
『映画 ビリギャル』作品を観た感想TB

画像(C)2015映画「ビリギャル」製作委員会

biligyal1.jpg 【解説と感想】賛否両論あるが、今や、家庭や学校のみならず職場でさえも、「厳しく叱って育てる」より「優しく褒めて育てる」教育をすべきだという意見が主流になりつつある。ところが、先日公開された「セッション」は、生徒をどんどん切り捨てる悪魔のようなスパルタ音楽教師と、ドラマーを目指す青年との師弟関係を描いた、背筋も凍るほどの傑作だった。本作は、「セッション」とは正反対の師弟ドラマ。遊んでばかりいた女子高生さやかと、落ちこぼれ生徒専門の塾教師・坪田信貴の実話から生まれた物語だ。

biligyal3.jpg 高校2年の夏休み、工藤さやか(有村架純)はイマドキのギャル風ファッションで、塾教師・坪田(伊藤淳史)の前に現れる。エスカレーター式の女子高だからと安心しきっていた彼女の学力は、小4レベルで学年ビリ(偏差値30)。高校教師(安田顕)からは匙を投げられていた。坪田の塾に通うのは落ちこぼれ生徒ばかり。驚くことに坪田は、さやかに慶應大学(偏差値70)を第一志望校にするよう勧める。彼は塾生たちが退屈しないよう楽しい話題を提供し、心理学を駆使した学習法で、とにかくやる気にさせてくれる。嫌々入塾した森玲司(野村周平)に対する、受験への動機づけも心憎い。

biligyal2.jpg さやかには仲のいい友達がいて、授業は聞いてなくても学校生活はエンジョイしている。品行方正ではないけれど、ワルではない。これは母親(吉田羊)の努力の賜。一方、父親(田中哲司)は弟(大内田悠平)を野球選手にすることしか考えていない。この夫婦は、勉強以外の面の子育てに力を入れて来た変わり者夫婦。つくづく親ってウザったいが有難いものだと思う。本作は、愛情が空回りしていた工藤家の再生物語にもなっている。

biligyal4.jpg さやかの場合、将来の目標がないから「ランクは下がっても○○科のある大学に行きたい」のではなく、「何科でもいいから慶応大学に合格すること」が最終目標。何も慶応でなくたって、そこそこの大学でいいじゃないかとも思う。誰も彼女が慶応に合格するなんて考えていない。ただ、目標が「そこそこ」だったら徹夜で勉強するだろうか。坪田とさやかだけは、本気で合格するために日夜頑張っている。大丈夫だよと励まされると、ひょっとしたら合格するんじゃないかと思えてくる。自分以上に自分を信じてくれる人がいるって、心強い!

この塾の生徒が、100%難関校に合格しているわけではないだろう。だが、仮にこの物語が全部フィクションだったとしても全然構わない。通常ならあり得ない目標に向かって頑張るさやかの姿は、自信を失っている人に俄然やる気を起こさせてくれる。毎日コツコツ努力することを怠り、何事も切羽詰まってからアタフタするのが私たち凡人である。学年ビリの女子高生とその家族が大学受験を通して変わっていく、熱いヒューマンドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
posted by 象のロケット at 19:42| Comment(0) | TrackBack(7) | 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月19日

『陽だまりハウスでマラソンを』お薦め映画

★★★★★ 2013年製作 独 (115 min)
【監督】キリアン・リートホーフ
【出演者】
ディーター・ハラーフォルデン
ターチャ・サイブト
ハイケ・マカッシュ(ラブ・アクチュアリー)
フレデリック・ラウ、カトリーン・ザース、カタリーナ・ローレンツ、オットー・メリース
【あらすじ】1956年、メルボルン・オリンピックのマラソン競技で金メダルを獲得した、西ドイツ出身のパウル・アヴァホフ。 彼はのんびり隠居生活を送っていたが、妻マーゴが病弱なため、夫婦で老人ホームへ入居することに。 しかし、人形制作や合唱といったレクリエーションは性に合わない。 一念発起した彼はベルリン・マラソンに出場すると宣言し、トレーニングを開始する…。 ヒューマンドラマ。 ≪人生に、引退はありません。≫
ドイツ映画賞最優秀主演男優賞

『陽だまりハウスでマラソンを』象のロケット
『陽だまりハウスでマラソンを』作品を観た感想TB

画像(C)2013 Neue Schonhauser Filmproduktion, Universum Film, ARRI Film & TV All rights reserved.

backontrack1.jpg 【解説と感想】本作の主人公パウル・アヴァホフ(ディーター・ハラーフォルデン:1935年生)は、1956年のメルボルン・オリンピックでマラソンの金メダルを取った(西)ドイツの国民的英雄。しかし、それから半世紀以上の時が経ち、彼は妻マーゴ(ターチャ・サイブト)と二人で老人ホームへ入居することになった。

私は、老人には概ね、(1)年寄り扱いされたくない人(ワガママで周りをハラハラさせる)と、(2)年相応の対応ができる人(冷静で付き合いやすいが、本人は葛藤している)と、(3)早くから妙に老け込んでいる人(長老として尊重しないと機嫌を損ねる)、(4)病気や身体障害がある人(看護・介護や支援が必要)、(5)認知症の人(看護・介護や支援が必要)の、5種類のタイプがあると感じている。パウルは(1)で、マーゴは(2)+(4)である。

老人施設では、まるで幼稚園か小学生向けのようなレクリエーションが行われることもある。それを受け入れられるのは(2)の熟慮型大人老人か、(5)の子どもに帰りつつある老人だ。中には憮然としている人もいる。どうやって長い一日を退屈せず安全に過ごすか、施設側も入居者たちも葛藤の連続だろう。私もあなたも、いつかは老人になる。合唱や人形作りなど、楽しめそうな気もするが、少なくともパウロはダメだった!

backontrack3.jpg 終の棲家の現実を受け入れることが出来ないパウロは、突然グラウンドを走り始め「ベルリン・マラソン」に出場すると言い出す。「俺は走るしか能のない男」とはいえ、既にりっぱなメタボ体型で、グラウンドを一周するのさえ大変なのにだ。ところが、なんてったって金メダリスト! 徐々に調子を取り戻してくるし、マーゴもサポート役に復帰し、まるで若い頃に戻ったよう。他の入居者たちから見れば、活動的な仲良し夫婦がうらやましい限り。しかし、ホームのスタッフは事故でも起こったらと心配でならない。おまけに、パウルが認知症か鬱病なのではと言い出す。色眼鏡をかければ、病名はいくらでもつけられそうだ。

backontrack2.jpg もちろん本人の強い意思によるもので、責任問題が起こらないよう一筆書けばの話だが、ある程度の年齢になったら、あまりうるさい管理はやめて本人の自由にさせてやればいいじゃないかと思う。だって、「○○をすれば、もういつ死んだっていい。」が、高齢者の口癖なのだから。悔いのない余生を過ごして欲しい。もしパウロがマラソンの途中で死んだとしても、きっと夫婦ともども本望だろうと私は思った。ただお迎えを待っているだけの人生なんて、真っ平ゴメン。高齢者は生き甲斐が欲しいのだ。様々な理由で出来ないことが増えていくのは、どんなに歯がゆいことだろう。

backontrack4.jpg パウロの若い頃の勇姿、そして今のメタボ姿、どちらの走りにも胸が熱くなる。なぜマラソンは、こんなにも人を感動させるのか? それはマラソンが「楽あれば苦あり、苦あれば楽あり」の人生に似ているからだろう。私は、どんなマラソン大会でも、頑張った選手全員に拍手を送りたいし、街なかでは、山あり谷ありの人生を送ってきた高齢者全員に対し、尊敬の念を持って接したいと思う。

仕事を持つパウロの一人娘ビルギット(ハイケ・マカッシュ)の悩み、老人ホームスタッフの立場、入居者たちの思い、パウロとマーゴ夫婦の関係など、日本とあまり変わりない老人問題が提示されているが、ユーモアたっぷりで明るい。生きる勇気と希望を与えてくれる前向きヒューマンドラマ。お薦め作品だ。
(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
posted by 象のロケット at 11:37| Comment(1) | TrackBack(5) | 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする