2017年06月18日

『ハクソー・リッジ』お薦め映画

★★★★★ 2016年製作 米・オーストラリア (139 min)
【監督】メル・ギブソン(ブレイブハート、パッション、顔のない天使)
【出演者】
アンドリュー・ガーフィールド(アメイジング・スパイダーマン2、沈黙 サイレンス、アメイジング・スパイダーマン、ドリーム ホーム 99%を操る男たち)
サム・ワーシントン(アバター、タイタンの戦い、崖っぷちの男、ターミネーター4)
ルーク・ブレイシー(X-ミッション、スパイ・レジェンド、かけがえのない人、G.I.ジョー バック2リベンジ)
テリーサ・パーマー、ヒューゴ・ウィーヴィング、レイチェル・グリフィス、ヴィンス・ヴォーン
【あらすじ】第二次世界大戦中のアメリカ。 青年デズモンドは陸軍に志願するが、訓練中も銃に触れることを断固として拒絶する。 宗教上の理由から「生涯、武器には触らない」と、固く心に誓っていたのだ。 そんな彼も、沖縄の激戦地「ハクソー・リッジ」へ赴任することに…。 実話から生まれた戦争ドラマ。 ≪戦争は命を奪うが、僕は、命を救う―。≫

『ハクソー・リッジ』象のロケット
『ハクソー・リッジ』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016. All Rights Reserved.

hacksaw1.jpg 【解説と感想】日本国憲法、中でも憲法9条を変えようという動きは以前からあるが、最近は特に自衛隊をどう明記するのかが問題となっている。平和外交を進めたくても穏便な交渉が出来ない国もあるし、今の国際状況を考えれば心配の種は尽きない。だが、改憲派と護憲派の意見はそれぞれが更に分かれていて、単純な二者択一ができなくなっている。

本作は第二次世界大戦中の沖縄(1945年)で、実際に起こった出来事を元に作られたアメリカ映画だ。主人公の青年デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)は、志願兵でありながら武器を持つことすら拒否した実在の人物である。ならば最初から志願などしなければいいのにと思うが、当時は健康な若者なら戦地を目指すのが当然だった。志願することで愛国心を示したかったのだろう。

hacksaw2.jpg 彼が戦いを拒否した理由のひとつに、第一次世界大戦(1914〜18)から生還した父親(ヒューゴ・ウィーヴィング)が、今でいうPTSD(心的外傷後ストレス障害)で、酒に溺れ暴力的になっていたことが挙げられる。もうひとつは、彼が熱心なセブンスデー・アドベンチスト教団(キリスト教の一派で菜食を推奨)の信者だったこと。デズモンドは聖書の「殺すなかれ」という言葉に忠実に従ったのだ。

「良心的兵役拒否」は、宗教その他の思想信条によって徴兵されても戦場へ行かないことを指し、当時のアメリカでも一応認められていた。「良心的兵役拒否」が容認されている国では、兵役に就く代わりに奉仕作業などが課せられるという。しかし、現在でも「良心的兵役拒否」が認められていない国もある。「臆病者」「信仰家」「平和主義者」と呼ばれるならまだしも、「反政府主義者」と見なされると面倒なことになる。

hacksaw3.jpg デズモンドは「良心的兵役拒否者」ではなく、あくまでも志願兵。戦うことは拒否しても、衛生兵として戦場へ赴き負傷者の命を救いたいと願った。それが敵と殺し合う仲間が別にいてこそ成り立つ職務であるにせよだ。もちろん、上官の大尉(サム・ワーシントン)や、軍曹(ヴィンス・ヴォーン)からは除隊を勧告され、同僚(ルーク・ブレイシー)たちからはいじめを受ける。アンドリュー・ガーフィールドは、今年公開された「沈黙 サイレンス」で鎖国時代に来日した宣教師を演じた。まだそれが目に焼き付いているせいもあり、デズモンドが神父や殉教者のように見えてきた。

hacksaw4.jpg ハクソー・リッジ(沖縄の前田高地)の戦闘シーンは壮絶で、日米両国の兵士の肉片や血が飛び散り、焼け焦げる惨状がリアルに描かれる。原則として衛生兵は殺さないというルールはあるものの、雨あられのような銃弾に当たれば死ぬ。デズモンドの働きぶりが山場となっており、敵と味方がひたすら殺し合う戦場で、信仰に支えられた青年の信念が発揮される。戦争など起こらない方がいいに決まっているが、イザという時に自分がどんな立場や役割を選択するのか、鑑賞後にしばし考えたくなる戦争ドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
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2017年02月11日

『ラ・ラ・ランド』お薦め映画

★★★★★ 2016年製作 米 (128 min)
【監督】デイミアン・チャゼル(セッション)
【出演者】
ライアン・ゴズリング(ナイスガイズ!、ラースとその彼女、ブルーバレンタイン、スーパー・チューズデー 正義を売った日
エマ・ストーン(ヘルプ 心がつなぐストーリー、アメイジング・スパイダーマン2、アメイジング・スパイダーマン、L.A. ギャング ストーリー)
ジョン・レジェンド、ソノヤ・ミズノ、J・K・シモンズ、カリー・ヘルナンデス、ジェシカ・ローゼンバーグ
【あらすじ】 夢追い人が集まる街アメリカ・ロサンゼルス。 映画スタジオのカフェで働くミアは女優を目指しているが、オーディションに落ちてばかりだった。 ある日、ミアは場末のバーでピアノを弾く青年セブことセバスチャンと出会う。 彼はいつか自分の店を持ち、本格的なジャズを思う存分演奏したいと願っていた。 恋に落ちた二人は互いの夢を応援し合うが、徐々に気持ちがすれ違っていく…。 ミュージカル。

『ラ・ラ・ランド』象のロケット
『ラ・ラ・ランド』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.

lalaland1.jpg 【解説と感想】長年の夢が叶い、愛する家族がいて、健康で、豊かで、毎日が充実していたら、こんな幸せなことはない。幸せの基準は人それぞれでも、最初からずっと満点だったという人は少ないだろう。ほとんどの人が何らかの妥協をして生きている。私にも捨てた夢や希望はあるが、今は幸せ基準点を少し低めに設定し、満足ではないが十分幸せだと思うことにしている。年と共に、夢や幸せの形は変わっていく。

lalaland2.jpg 本作の主人公は、売れない男性ジャズピアニストのセブことセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と、売れない女優のミア(エマ・ストーン)。共にアメリカ・ロサンゼルスで夢を追いかけているが、なかなか芽が出ない。生活のため、セブはバーで好きでもない曲を演奏し、ミアは映画スタジオ内カフェの店員をしている。恋に落ちた二人は一緒に暮らし始め、互いの夢を応援し合う。彼らの表情は輝いていて幸せそうだ。しかしまだ若いので、それだけでは満足できずにいる。

lalaland4.jpg 冒頭の、高速道路で大勢のダンサーがエネルギッシュに歌って踊るシーンには圧倒される。どうやって撮影したのかと、いちいち指差したくなるほど凄い! 目まぐるしく変わるカラフルな衣装やセットには、レトロな雰囲気が漂う。ブロードウェイのミュージカルにも出演しているエマ・ストーンと違い、ライアン・ゴズリングは歌とダンスを、そしてジャズピアノを吹き替えなしで演奏するために、大特訓したのだという。二人にどこまで素養があったのかはわからないが、ミュージカル映画として十分楽しめたし、ピアノやバンドの演奏も良かった。セブとミアが初めて心を通わせるのは、夕暮れ時の見晴らしの良い高台で、そこで歌って踊るシーンはロマンティックだ。

lalaland3.jpg 世の中まだまだ完全な男女平等社会ではない。男性は一家の大黒柱という概念に縛られ、夢を途中で諦め手堅い職に就く人も多い。そして女性は仕事を持っていてもいなくても、男の成功を支えなくてはならないのではと思ってしまいがちだ。セブも二人の将来を考え、一種の妥協をしてしまう。それは女性にとって、嬉しくもあり悲しくもある決断だ。ミアはセブに好きな音楽をやって欲しかったし、自身の女優への夢も諦めきれないでいる。二人の夢は、愛は、どうなるのか…?

lalaland5.jpg ミュージカルという所に目が行くけれど、この作品の一番の売りは、やはりストーリーだろう。映画ならではのファンタジックな見せ場が終盤に待っている。二人が見つめ合うシーンがたまらない! 本作がハッピーエンドなのか否かは、見る人次第である。若い方は夢を諦めず頑張ろうと心を新たにするかもしれないし、年配の方は昔を思い出すかもしれない。人生において、いったいどこが幸せの頂点なのだろう? 今そばにいる人を大切にしたくなる、甘くて苦いラブ・ストーリー。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
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2017年01月20日

『沈黙 サイレンス』お薦め映画

★★★★ 2016年製作 メキシコ・台湾・米 (159 min)
【監督】マーティン・スコセッシ(ディパーテッド、ヒューゴの不思議な発明、ウルフ・オブ・ウォールストリート、タクシードライバー)
【出演者】
アンドリュー・ガーフィールド(アメイジング・スパイダーマン2、アメイジング・スパイダーマン、ドリーム ホーム 99%を操る男たち、ソーシャル・ネットワーク)
リーアム・ニーソン(ラン・オールナイト、96時間、レ・ミゼラブル、スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス)
アダム・ドライバー(スター・ウォーズ フォースの覚醒、奇跡の2000マイル、フランシス・ハ、ヤング・アダルト・ニューヨーク)
窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也
【あらすじ】17世紀(江戸時代初期)。 長年、日本で布教活動していたポルトガル人宣教師フェレイラは、幕府の激しいキリシタン弾圧に耐えられず棄教したと噂されていた。 師の安否と真実を確かめるため、弟子の司祭ロドリゴとガルペは、日本人キチジローの手引きでマカオから長崎へと潜入する。 そこでは想像を絶する苛酷な弾圧が行われていた。 囚われたロドリゴは、究極の選択を迫られる…。 歴史ドラマ。
原作:遠藤周作『沈黙』

『沈黙 サイレンス』象のロケット
『沈黙 サイレンス』作品を観た感想TB

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silence1.jpg 【解説と感想】20年近く日本でカトリックの布教活動をしていた師である教父フェレイラ(リーアム・ニーソン)の生死と、彼が本当に棄教したのか否かを確かめるため、主人公である若き司祭ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)と、同僚ガルペ(アダム・ドライバー)は、ポルトガルから遠路はるばる長崎へ渡った。時はキリシタン(キリスト教信者)が幕府を敵に回した一揆(ということにされてしまった)「島原の乱(1637〜8年)」から間もない頃で、キリスト教はご法度の時代。2人は隠れキリシタンの里に潜伏するしかなかった。

silence2.jpg カトリック信者である日本人作家・遠藤周作(1923〜1996)が1966年に書いた小説「沈黙」(モデルはいるがフィクション)を、恐らくはカトリック信者であろうアメリカ人監督マーティン・スコセッシ(1942〜)が映画化した。撮影地は台湾だというが、「変な日本人」がいない違和感のない時代劇で、安心して見ていられた。ポルトガル人宣教師をハリウッド俳優が演じ、英語で会話していることについては、…日本人はあまり気にしないだろう。

3人の宣教師の顔は皆、よくあるイエス・キリストの顔に似ている。実際3人は、自らの置かれた状況とイエスの苦難を重ねて困難に耐える。彼らは死を恐れない。殉教は誇らしくさえあるのだ。しかしその先には殉教より辛い試練が待っていた。何人をも受け入れ、罪を赦し、神の愛を説くという信念が揺らぎかねない。やがて、司祭としてあるまじき疑問がロドリゴの頭に浮かぶ。

江戸時代のこととはいえ、世界中のキリスト教徒にすみませんと言いたくなるような拷問シーンだ。西洋諸国の植民地にされないようにと、小さな島国・日本は必至だった。キリシタン禁止と鎖国は幕府にとっては必要なことで、それは政治的には成功したのである。かつては仏教ですら、排斥された時代もあった。今もなお、政治・宗教・経済・戦争は、複雑に絡み合っている。

silence3.jpg 日本人キャストも村人役(塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ、等)まで豪華。能面のような顔をした通訳(浅野忠信)、老獪な井上筑後守(イッセー尾形)、そして日本人側の主役と言えるのが、ロドリゴたちをマカオから長崎まで連れてくる日本人漁師キチジロー(窪塚洋介)。最初から信用できない雰囲気を漂わせていて、ロドリゴたちは懸念する。イエスを裏切った弟子ユダのように、キチジローが自分たちを売るのではないかと。キチジローは迷える子羊、弱き人間の代表だ。窪塚洋介の演技が素晴らしかった。

silence4.jpg 私も純真だった高校時代は「沈黙」を読み、これが真の信仰の姿だと感銘を受けたものだが、世俗にまみれた今読むと、キリスト教が弾圧された政治的背景や、貧しい百姓が天国に憧れた気持ち、日本人全般の宗教観にばかり目が行ってしまう。私は神社・寺院・教会のどこへでも気軽に足を運ぶ、一般的な宗教心の薄い日本人で、熱心に宗教活動をする人の気持ちは分からない。だが「沈黙」はそんな私の心にも響く崇高な文学作品であった。本作を見た後も、その気持ちに変わりはない。映画からは今の社会へのメッセージが伝わってくる。信仰を超えた人としての道が問われる重厚な歴史ドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)
 
 
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2015年10月31日

『ローマに消えた男』お薦め映画

★★★★ 2013年製作 仏・伊 (94 min)
【監督】ロベルト・アンドー
【出演者】トニ・セルヴィッロ(湖のほとりで、眠れる美女、グレート・ビューティー 追憶のローマ)
ヴァレリオ・マスタンドレア(天使が消えた街)
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ(ふたりの5つの分かれ路、華麗なるアリバイ、嘘の心、私の男)
ミケーラ・チェスコン、アンナ・ボナイウート、エリック・グエン、アンドレア・レンツィ
【あらすじ】統一選挙が迫るイタリア。 最大野党を率いる書記長エンリコ・オリヴェーリは支持率低迷に悩み、突然ローマから失踪してしまった。 腹心の部下アンドレアはスキャンダルを揉み消すため、エンリコと瓜二つの双子の兄ジョヴァンニを替え玉に起用する。 ジョヴァンニは哲学の教授だが、精神治療施設を退院したばかり。 人が変わったような書記長の言動は、たちまちメディアの注目を集めることに…。 コメディ。
イタリア・アカデミー賞最優秀脚本賞・最優秀助演男優賞、他受賞

『ローマに消えた男』象のロケット
『ローマに消えた男』作品を観た感想TB

画像(C)Bibi Film(c)Rai Cinema All rights reserved.

roma1.jpg 【解説と感想】少し前に終了した深夜ドラマ「民王」を時々見ていた。父親である総理大臣(遠藤憲一)と大学生の息子(菅田将暉)の「異変によって中身だけが入れ替わってしまう」という話で、二人の演技に笑わせられた。

本作「ローマに消えた男」は、ありえない「異変」ではなく、「意図的に別人に成りすます」お話。主人公であるイタリアの大物政治家エンリコ・オリヴェーリ(トニ・セルヴィッロ)が失踪。困り果てた秘書アンドレア(ヴァレリオ・マスタンドレア)が、エンリコと瓜二つの双子の兄ジョヴァンニ(トニ・セルヴィッロ2役)を替え玉に起用するという、これまた楽しいストーリーである。

来月11月20日公開の『Re:LIFE リライフ』は、アカデミー賞脚本賞を受賞したものの、その後15年間も鳴かず飛ばずの脚本家キース(ヒュー・グラント)が、大学の講師を依頼される、「天職」とは何かを考えさせる作品だった。自分の天職が何なのかは、時として人生の終盤までわからないものだ

roma2.jpg 本作の場合、鬱状態の悩める政治家である“ローマから消えた男”エンリコは、一般人のフリをして憧れていた映画業界の裏方アルバイトをやり、ひとときのアバンチュールを楽しみ、心の平穏を噛み締める。一方、哲学の教授である“ローマに現れた男”ジョヴァンニは躁状態。政治家としてマスコミの質問を煙に巻き、爽やかな弁舌で選挙民を惹きつける。彼らはこのまま、新しい人生を歩んだ方が幸せなのではと思ってしまう。

何処の国も政治不信。選挙では、華麗な経歴や実現できるかどうかも分からない公約より、基本的な政治理念と、要はこの人に任せてみようかなという漠然とした信頼感つまりはカリスマ性が重視される。結果として政治がコケれば、それは騙された私たちが悪いのだ。ジョヴァンニの選挙演説は、全く以って具体的ではないのだが、ついつい拍手したくなる。特に笑顔がいい。

roma3.jpg ところで、家出中のエンリコが居候しているのは、フランス・パリで暮らす25年前に別れた元恋人ダニエル(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)の家。そこには彼女の夫や娘がいるというのに! 誰もエンリコに警戒心を抱かない大人の対応で、エンリコだけが困ったチャン。果たしてやけぼっくいに火はつくのか? そして気の毒なのは、替え玉スキャンダル露見を恐れる政治家秘書アンドレア。縁の下の力持ちに徹し、誠実に政治家を支える彼に、共感を覚える男性は多いのではなかろうか。

roma4.jpg 双子は間違われるのに慣れている。エンリコとジョヴァンニは幼い頃から、時々ワザと入れ替わって楽しんでいたらしい。果たして最後に政界に残る男は、兄と弟のどちらなのか? 彼らそれぞれの本当の天職とは? 爽やかで洗練された、ミステリアスな大人のコメディ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
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2015年10月02日

『ヒトラー暗殺、13分の誤算』お薦め映画

★★★★ 2015年製作 独 (114 min)
【監督】オリヴァー・ヒルシュビーゲル(ヒトラー 最期の12日間、インベージョン、ダイアナ、es ≪エス≫)
【出演者】
クリスティアン・フリーデル(白いリボン)
カタリーナ・シュットラー(コーヒーをめぐる冒険)
ブルクハルト・クラウスナー(コッホ先生と僕らの革命、白いリボン、ベルリン,僕らの革命、ゲーテの恋 君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」
ヨハン・フォン・ビュロー、フェリックス・アイトナー、ダーヴィッド・ツィンマーシート、リュディガー・クリンク
【あらすじ】1939年11月8日、ドイツ・ミュンヘンのビアホールで恒例の記念演説を行っていたヒトラーは、いつもより早く話を切り上げて退席。 その13分後、ホールに仕掛けられていた時限爆弾が爆発する。 逮捕された36歳の男ゲオルク・エルザーは、外国のスパイではなく、田舎に住むただの家具職人だった。 なぜ彼は暗殺者となったのか…? 実話から生まれた物語。

『ヒトラー暗殺、13分の誤算』象のロケット
『ヒトラー暗殺、13分の誤算』作品を観た感想TB

画像(C)2015 LUCKY BIRD PICTURES GMBH, DELPHI MEDIEN GMBH, PHILIPP FILMPRODUCTION GMBH & CO.KG cBernd Schuller All rights reserved.

elser1.jpg 【解説と感想】「安全保障関連法」が怒号のなか成立した。 60年、70年安保の頃は知らないが、こんなに国民が政治に関心を持ったのは、1988年に「消費税法」が成立した時以来ではなかろうか。賛成でも反対でもいいから、国民特に若い世代が政治に関心を持つのは良いことだと思う。ただ、お祭り気分で騒いでいるだけ、時代の流れを見物に来ているだけのような人々もいたようだ。皆が同じ方向を向いている時は気分も高揚するし、そこにいるだけで何かをやり遂げたような達成感があるのだろう。

さて本作の主人公は、ナチス・ドイツの最高指導者アドルフ・ヒトラー(1889〜1945年)を暗殺しようとした男ゲオルク・エルザー(クリスティアン・フリーデル)。 彼はヒトラーを殺そうとしたが失敗し、その時に8名の無関係な人々を死亡させた殺人犯だ。

今日ではヒトラーは20世紀最大の嫌われ者であり、彼を暗殺しようとしたエルザーは、近年英雄視されつつあるらしい。だが暗殺当時はヒトラーの全盛期で、エルザーは極刑に値するテロリストだった。罪もない人々を8名も殺したのだから、今だって死刑のはずだが、その時めでたくヒトラーが殺されていれば、ひょっとしたら数百万とも言われるユダヤ人大量虐殺は防げたかもしれない。
ヒトラー暗殺は「ワルキューレ」事件など何度も起こったものの結局は未遂に終わり、神に選ばれし者のように生き延びたヒトラーは、不幸にも勢力を拡大してしまったのである。

elser2.jpg エルザーは単独犯だと供述している。今や真偽のほどは不明だが、ナチスの情報力をもってしても、彼の所属組織や共犯者を挙げることはできなかった。エルザーは小さな町の家具職人であり、政治家や軍人でも、ユダヤ人でも、レジスタンスや共産主義者でも、インテリの理想主義者でもなかった。それどころか犯行前は、若者らしく音楽やダンスに興じ、人妻エルザ(カタリーナ・シュットラー)に手を出したりする、たいした正義感も政治思想もなさそうな男だったのだ。ところが逮捕後、彼は見事な変貌を遂げる。拷問に耐え尋問に受け答えする様子は、「信念の人」にしか見えない。

elser3.jpg ヒトラーは最初から恐ろしい独裁者だったのではない。国民の支持を得たからこそ、首相にまで上り詰めることができた。エルザーがヒトラー暗殺を実行したのは1939年。ヒトラーの権威が失墜しついに敗れるのは1945年だから、彼は極めて早い段階で、ヒトラーが危険だと見抜いたことになる。ナチスの台頭によって暮らしが変わっていくのを何となくおかしいと肌で感じていたのが、エルザーたち一般市民だった様子が、本編中でも描かれている。世界は突然ではなく、少しずつ変わっていく。気づいたら変わっていた、という日が突然やって来るだけなのだ。

elser4.jpg いくら志が高くても、一人の力なんてたかが知れている。大きな力を持たないと何もやり遂げることができないとよく言われる。しかし例えば選挙を前に複数の政党が組む場合など、大義のためにかなり無理な妥協をしなくてはならないし、結局は細かい差異が衝突を招き、やがて崩壊してしまう。大勢で真っ直ぐ行進するのは大変だが、一人だと大きなことはできない代わりに、小回りが利く。

自分が小さな存在で何の力もないと自覚する人は、市井の人が自身の感覚に従って行動を起こしたこの事件を、忘れてはならないと思う。もちろん彼のような殺人行為は言語道断だが、世のため人のために、一人でもできることはたくさんある。誰とも組まずたった一人でヒトラー暗殺を行った、平凡な男の実像と犯行動機に迫る歴史ドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
posted by 象のロケット at 19:20| Comment(0) | TrackBack(5) | 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする