2018年11月01日

『ボヘミアン・ラプソディ』お薦め映画

★★★★★ 2018年製作 英・米 (135 min)
【監督】ブライアン・シンガー(X-MEN、スーパーマン リターンズ、X-MEN:アポカリプス、ユージュアル・サスペクツ)
【出演者】
ラミ・マレック(ニード・フォー・スピード、ナイト ミュージアム エジプト王の秘密、ナイト ミュージアム、ザ・マスター )
ルーシー・ボイントン(シング・ストリート 未来へのうた)
グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョー・マッゼロ、エイダン・ギレン、アレン・リーチ
【あらすじ】1970年、イギリス・ロンドン。 昼は空港で働き、夜はライブ・ハウスに入り浸っていた青年フレディは、ギタリストのブライアンとドラマーのロジャーのバンドの新しいヴォーカリストとなり、ベーシストのジョンを加え、ロックバンド「クイーン」として活動を始める。 数々のヒット曲が生まれ、彼らは世界的大スターとなるが…。 音楽ヒューマンドラマ。
音楽総指揮:ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー

『ボヘミアン・ラプソディ』象のロケット
『ボヘミアン・ラプソディ』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.


bohemian1.JPG 【解説と感想】 世界を代表するイギリスのロックバンド「ビートルズ」の活動期間は1950年代後半〜1970年。そして同じくイギリスのロックバンド「クイーン」の4人全員での活動期間は1973年〜1980年代初め。どちらも昔のバンドで、私もリアルタイムでは彼らの活躍の記憶はあまりない。だが、そのメロディーは今も世界中の至る所で流れているし、新しいファンも増やし続けている。ビートルズのジョン・レノン射殺事件と同じくらい衝撃的だったのが、クイーンのヴォーカル、フレディ・マーキュリーのHIV感染。メンバーの死で両バンドの伝説は更に大きくなったが、オリジナル・メンバー全員揃っての活動はもう出来ない。

『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』、『ザ・ローリング・ストーンズ:シャイン・ア・ライト』はドキュメンタリー映画で、彼らの歩みと知られざる姿を見せる構成と音楽的な満足感と臨場感で観客を魅了した。しかし本作『ボヘミアン・ラプソディ』は「クイーン」のドキュメンタリー映画ではなく、フレディ・マーキュリーの歌声(誰も真似出来ないだろう)が使われているものの、俳優が演じるフレディ・マーキュリーを主人公とした「クイーン」の伝記映画である。なので期待と不安が半々だったが、鑑賞後の満足度は非常に高かった。

bohemian2.jpg 両親がペルシャ系インド人で、幼少期をインドで過ごしたフレディ・マーキュリー(ラミ・マレック)は、最初はメアリー・オースティン(ルーシー・ボイントン)という女の子に恋する、普通の可愛らしい長髪の少年だった。だが次第に男っぽさを強調する外見になりゲイ化してゆく。彼はずっと両性愛者だったと言われている。大学でデザインを専攻していたので衣裳へのこだわりも強かった。そんな彼の心身の変化や葛藤、音楽スタイルの変化が手に取るように観客に伝わるのは、ストーリー性のある映画ならではだろう。

bohemian3.jpg 全員が作詞・作曲が出来て幾つもの楽器をこなし歌える芸達者で、ぶつかることも多かったからこそ、作品の完成度も高かった。特にタイトルにもなっている“ロック・オペラ”「ボヘミアン・ラプソディ」の録音シーンは、若さゆえの妥協しない姿、制作への熱意、ハチャメチャな勢いがユーモアたっぷりに描かれていて笑わせてくれる。ギタリストのブライアン・メイ(グウィリム・リー)、ドラマーのロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)、ベーシストのジョン・ディーコン(ジョー・マッゼロ)と、フレディの波長が次第に合わなくなっていくのが悲しい。

1985年に開催された20世紀最大のチャリティ音楽イベント“ライヴ・エイド”のシーンは圧巻で、衣装も一部は当時の本物が使われており、メンバーになり切った俳優たちの全身全霊のパフォーマンスに、胸が熱くなる。本作の音楽総指揮は、現在も「クイーン」として精力的に活動しているブライアン・メイとロジャー・テイラー。これ以上の「クイーン」映画はないだろう。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)



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2018年10月04日

『母さんがどんなに僕を嫌いでも』お薦め映画

★★★★ 2018年製作 日 (104 min)
【監督】 御法川修 (人生、いろどり、すーちゃん まいちゃん さわ子さん、SOUL RED 松田優作)
【出演者】
太賀(十年 Ten Years Japan、青い鳥、ポンチョに夜明けの風はらませて、南瓜とマヨネーズ)
吉田羊(コーヒーが冷めないうちに、ラブ×ドック、嫌な女、映画 ビリギャル)
森崎ウィン(劇場版 怪談レストラン、天国からのエール、レディ・プレイヤー1、書道ガールズ!! わたしたちの甲子園)
白石隼也、秋月三佳、小山春朋、木野花

【あらすじ】 少年タイジは美しい母・光子が大好きで、手間暇かけて作ってくれる混ぜご飯が大好物。 だが、家の中では光子は情緒不安定で、タイジに暴力を振るっていた。 17歳で家を出たタイジは、自分の殻に閉じ籠りがちな青年になった。 相変わらず冷たい母と再会した彼は、自分と母の関係を変えようと決意する…。 実話から生まれたヒューマンドラマ。
原作:歌川たいじ 主題歌:ゴスペラーズ『Seven Seas Journey』

『母さんがどんなに僕を嫌いでも』象のロケット
『母さんがどんなに僕を嫌いでも』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2018『母さんがどんなに僕を嫌いでも』製作委員会

kasan1.jpg 【解説と感想】 体罰は、教師から生徒への「熱血指導」、親から子への「厳格な躾け」として容認されてきたが、今は「暴力」や「虐待」という「事件」になりかねない時代となった。暴力が「愛のムチ」であるか否かは、第三者や当人同士にさえ分からない場合もある。時には「愛のムチ」が必要な場合もあると思うのだが…。

しかし、本作の主人公タイジ(太賀)が母・光子(吉田羊)から受けていた暴力は、明らかに「躾け」ではなく「虐待」である。美人で気が利いていて東京下町の人気者だった光子は、外面は良いが秘かに息子を叩いていた。夫の浮気のストレスもあったし、ノロマで太っている息子が不甲斐なく、イライラしたのかもしれない。背中に酷い傷跡が残るほどの暴力と、心がズタズタになるような言葉の暴力に耐えかね、タイジは17歳で家出してしまう。

kasan2.jpg 幼少期のタイジ(子役・小山春朋)はいくらぶたれても、美味しい混ぜご飯を作ってくれる、きれいなお母さんが大好きだった。虐待を受ける幼児は、ぶたれるのは自分が悪いからだと思ってしまうらしい。また、ぶたれる悲しさを知っているはずなのに、自分が親になると、我が子を虐待しがちであるという。貧困の連鎖と同じく、暴力の連鎖である。虐待はそれほど子の精神にダメージを与えてしまう。タイジはよくグレなかったものだ。

kasan4.jpg そんな暗い家庭生活を送っていたタイジは、人と接することが苦手だったが、自分を変えようと努力した。それは、子どもの頃に実家工場の従業員だった婆ちゃん(木野花)と、就職後に出会ったキミツ(森崎ウィン)、カナ(秋月三佳)、大将(白石隼也)という友人たちのお蔭でもある。彼らはタイジがたとえ後ずさりしても、2歩3歩と心の中に踏み込んで来た。それは相手を思うがゆえの、愛情や友情という名の「お節介」。昨今はそんな「ウザイ」お節介焼きも、少なくなってしまった。

kasan3.jpg ようやく青春を謳歌できるようになったタイジは、絶縁状態だった光子と再会する。母の息子への態度は相変わらず冷たかったが、何とここでタイジは、光子と普通の親子のようになりたいと願うのである。自分の努力で人生を一山乗り越えたからこそ、母のことに気を配る余裕が出たのもしれない。共感できる人と、出来ない人がいるだろう。そこまでしなくてもいいんじゃないのとも思う。だが、人間関係は理屈で割り切れるものではない。果たして健気な息子の優しさは、笑顔一つ見せない母親に通じるのか…?

原作は、ゲイを公表し性的少数者への理解を求める活動を積極的に行っている、小説家・漫画家・エッセイストの歌川たいじ(1966〜)の自伝的小説。ただし、映画はゲイとは全く関係はなく、あくまでも虐待を受けた青年の成長物語である。どんなに母親に嫌われても、ぶたれても、母の愛を求め続ける姿が痛々しく、悲しく、愛おしくて泣けてしまう。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
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2018年08月05日

『判決、ふたつの希望』お薦め映画

★★★★ 2017年製作 レバノン・仏 (113 min)
【監督】ジアド・ドゥエイリ
【出演者】アデル・カラム、リタ・ハーエク、カメル・エル=バシャ、クリスティーン・シュウェイリー、カミール・サラーメ、ディヤマン・アブー・アッブード、タラール・アル=ジュルディー
【あらすじ】レバノンの首都ベイルート。 住宅街で違法建築の補修作業を行っていたパレスチナ難民の現場監督ヤーセル・サラーメと、補修工事をされたキリスト教系政党の熱心な信者であるレバノン人男性トニー・ハンナの間でトラブルが発生。 ちょっとした口論は暴力沙汰から裁判となり、やがて国を二分する騒乱へと発展してゆく…。 法廷ドラマ。

ベネチア国際映画祭最優秀男優賞、アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、他多数受賞

『判決、ふたつの希望』象のロケット
『判決、ふたつの希望』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2017 TESSALIT PRODUCTIONS - ROUGE INTERNATIONAL - EZEKIEL FILMS - SCOPE PICTURES - DOURI FILMS PHOTO(c)TESSALIT PRODUCTIONS - ROUGE INTERNATIONAL All rights reserved.

insult1.jpg 【解説と感想】 大河ドラマの「西郷どん」が、ようやく革命家へと変貌し始めた。かつては戊辰戦争の憎しみが残り、薩摩(鹿児島:明治政府側)と会津(福島:幕府側)の人は、お互いの方言を毛嫌いし、結婚もできなかったという昔話まであった。だが明治維新とその後の西南戦争以来、日本で内戦は起こっていない。しかしたとえば、2〜30年前まで殺し合っていた民族同士が、隣近所に住んでいたらどうだろう?

insult4.jpg 中東レバノンの首都ベイルート。住宅街で補修作業を行っていたパレスチナ難民の現場監督男性ヤーセル・サラーメ(カメル・エル=バシャ)と、地元住民でキリスト教系政党の熱心な信者であるレバノン人男性トニー・ハンナ(アデル・カラム)の間で、些細なトラブルが起こった。

第二次世界大戦で大変な目に遭ったユダヤ人は世界各国から同情され、イスラエルが建国(1948年)されたが、そこに住んでいたアラブ人は追い出される形となりパレスチナ難民となった。中東では常に紛争が起こっており、原因を遡れば紀元前まで、近代ならヨーロッパの植民地時代や第二次世界大戦に繋がり複雑極まりなく、詳細な感情は理解し難い。現場監督ヤーセルは、レバノン(1941年建国)へ逃れて来たイスラム教徒のパレスチナ難民。レバノンには中東でキリスト教徒が一番多く住んでいると言われており、特にトニーたちが支持するキリスト教系の政治家は、異教徒の難民らを追い出したいらしく熱弁を奮っている。レバノン内戦(1975〜1990)では、パレスチナ難民とキリスト教徒の間でも抗争があった。内戦が終わっても宗教と民族による対立は現在でも続いているからこそ、トニーはヤーセルを見ただけで嫌になったのだ。

insult2.jpg いい歳をした男同士のちょっとした口論は暴力沙汰から裁判となり、やがて国を二分する騒乱へと発展してゆく。こんな大事になるとは思っても見なかったが、裁判で白黒つけねばならず引っ込みがつかなくなってしまった。常識的に見て加害者であるはずのパレスチナ難民ヤーセルに同情が集まり、被害者のレバノン人トニーが難民に理解のない横暴な男に見えてしまう。この物語では、被害者と加害者の立ち位置が何度も入れ替わるところが味噌になる。

insult3.jpg 世代や年齢、時には性別でも見方が変わる。ヤーセルとトニー、そして年配のトニー側弁護士ワハビー(カミール・サラーメ)は、直接的に内戦を体験しているだけに過去へのこだわりが強く、トニーの妊娠中の若い妻シリーン(リタ・ハーエク)と、ヤーセル側の若き人権派女性弁護士ナディーン(ディヤマン・アブー・アッブード)は、できればお互い仲良くやっていきたいと思っている。世界各地の紛争地域でも体験世代と端境期の世代では感覚がかなり違うはずだが、次世代がどう感じるかは教育次第。トニーは近々生まれ来る我が子に、この裁判のことを将来どう説明するのだろうか。

監督ジアド・ドゥエイリは1963年生まれの、レバノン内戦を経験したレバノン人。 これからこのような映画がどんどん世界へ出て行き、自分たち当事者と次世代へ、未来への思いを伝えていくことになるのだろう。誰が悪いとも正しいとも、被害者とも加害者とも言えなくなってしまう社会派ヒューマンドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 

 
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2018年07月11日

『タリーと私の秘密の時間』お薦め映画

★★★★★ 2018年製作 米 (95 min)
【監督】ジェイソン・ライトマン(JUNO/ジュノ、マイレージ・マイライフ、サンキュー・スモーキング、ヤング≒アダルト
【出演者】
シャーリーズ・セロン(スタンドアップ、マッドマックス 怒りのデス・ロード、モンスター、ヤング≒アダルト)
マッケンジー・デイヴィス(ブレードランナー 2049、オデッセイ)
マーク・デュプラス(ラザロ・エフェクト)
ロン・リヴィングストン、アッシャー・マイルズ・フォーリカ、リア・フランクランド
【あらすじ】
産休中の女性マーロは長男と長女の世話で大忙しだが、多忙な夫ドリューは家事も育児もマーロに任せきり。 兄の提案で、次女を出産した後は思い切って夜間のベビーシッターを頼むことに。 22時半に現れたのは驚くほど若い女性タリーだったが彼女の仕事は完璧で、マーロとタリーはいつしか友情を育んでいく…。 ヒューマンドラマ。

『タリーと私の秘密の時間』象のロケット
『タリーと私の秘密の時間』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2017 TULLY PRODUCTIONS.LLC. All rights reserved.

tully1.jpg 【解説と感想】 ハリウッド女優シャーリーズ・セロンの近年のイメージは、「カッコイイ大人の女性」。スタイル抜群で美人なのは言うまでもない。そんな彼女は役作りのため、2003年の「モンスター」では15キロほど増量したらしいが、本作でも臨月の妊婦を演じるために16〜20キロも増量したという。2015年の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(これはこれでイメージを覆す強烈キャラだったが)や、2017年の「アトミック・ブロンド」で演じた強い女とは対極にあるようなダラっとした体を見て、最初は誰だか分らなかったほどだ。

tully2.jpg 産休中の主人公マーロ(シャーリーズ・セロン)は、幸せ太りしているのではない。とにかく疲れ切っている。おませな長女サラは手がかからないものの、長男ジョナは情緒不安定でキレると暴れて手が付けられない。夫ドリュー(ロン・リヴィングストン)は真面目に働き、家事や育児にはあまり手を出さない一般的な男。マーロも仕事を持っているのだが、夫に不満をぶちまけたりせず何もかも自分でこなす、いわゆる貯め込むタイプ。そんな妹を見かねて裕福な兄クレイグ(マーク・デュプラス)が、出産祝いに夜間専門のベビーシッターを用意してくれた。他人に家事・育児を任せることに抵抗感があったマーロも、次女ミアが産まれて限界を感じ、ようやく依頼する気になった。

tully4.jpg 現れたのはベテランのおばさんではなく、意外にも20代の若い女性タリー(マッケンジー・デイヴィス)だった。タリーは有能で、仕事以上のことまで気を利かせてやってくれる。マーロはようやく夜眠れるようになり、元気も笑顔も取り戻した。かなり年下なのに、タリーは姉のようにマーロの不安を受け止めアドバイスしてくれる。マーロにとってタリーは、唯一無二の親友になった。しかし、めでたしめでたし…とはいかない。あっと驚く結末が待っているのだが、詳しいことは語らないでおこう。

tully3.jpg これから結婚して親になるかもしれない方、今まさに家事や育児で疲れ果てている方、もうこんな大変な時期を乗り越えた方、その他忙しい思いをしているあらゆる女性の共感を呼ぶストーリーだ。主婦ってお母さんって、こんなに大変なのだと身につまされる。しかもこれはアメリカ映画。日本なら、もっともっと大変だろうと思う。

tully5.jpg マーロの夫の印象は薄い。登場が少ないのは、彼がほとんど家のことをやっていないからでもある。気持ちは優しく一見協力的だが、普段はほとんど帰宅してメシを食って寝るだけの彼は、どんなに家事や育児が大変か、妻が仕事との両立に悩んでいること、ボロボロに疲れていること、キレイにしたくてもできないこと、どんどん脂肪がついてしまうこと…、ああ、数え上げればキリがないが、そんなことにまるで気づいていない。そう、夫に悪気はないのだ。だから、妻はちゃんと分かるように言わなくてはならない。「あなたも手伝って!」と。限界が来て鬼の形相になる前に! 誰もがベビーシッターを雇える訳ではない。マーロは子育てより先に、夫を育てておくべきであった。夫の仕事が忙しい、忙しくないはあまり関係がない。そこはやる気一つである。

「完璧主義のお母さん、一人で頑張りすぎないで!」と思わず声をかけたくなる。子育ての修羅場だけでなく、その時期の微妙な夫婦関係、年齢と共に変わっていく人生観や幸福感、周囲の気遣いなど、細かい点までリアルに描いてあるのは、脚本家自身の子育て体験から生まれた作品ということもあるのだろう。あらゆる世代のカップルに見て頂きたい家族のドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
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2018年06月07日

『羊と鋼の森』お薦め映画

★★★★ 2018年製作 日 (134 min)
【監督】橋本光二郎(orange オレンジ)
【出演者】
山崎賢人(斉木楠雄のΨ難、ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章、氷菓、アナザー Another)
鈴木亮平(ふたたび SWING ME AGAIN、俺物語!!、花子とアン、忍びの国)
上白石萌音(舞妓はレディ、ちはやふる -結び- 、ちはやふる 下の句、ちはやふる 上の句)
上白石萌歌、光石研、吉行和子、三浦友和
【あらすじ】将来の夢が何もなかった少年・外村は、高校でピアノ調律師・板鳥に出会う。 彼が調律したその音に、生まれ故郷と同じ森の匂いを感じた外村は、調律に魅せられ、その世界に、足を踏み入れていく…。 青春ドラマ。 ≪「羊」の毛で作られたハンマーが、「鋼」の弦をたたく。 ピアノの音が生まれる。 生み出された音は、「森」の匂いがした―≫
原作:宮下奈都 エンディングテーマ『The Dream of the Lambs』作曲・編曲:久石譲/ピアノ演奏:辻井伸行

『羊と鋼の森』象のロケット
『羊と鋼の森』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2018「羊と鋼の森」製作委員会


hitsujimori1.jpg 【解説と感想】 ピアノは気温や湿度によって弦が膨張したり収縮したりして音が狂うため定期的な調律が必要で、通常は1年に1回程度プロの調律師に依頼する。プロのピアニストは世界各地のコンサートホールのピアノを弾くので、そのホールの調律師に任せたり、お気に入りの調律師を呼ぶのだという。調律師によって音色が微妙に変わるのだから重要な仕事だ。とはいえ、あくまでもピアノを弾く人が主役で、調律師は黒子である。

hitsujimori2.jpg 本作の主人公・外村直樹(山崎直人)は、高校生の時に学校のピアノを調整しに来た調律師・板鳥宗一郎(三浦友和)と出会い、一瞬でその音色に魅せられ、調律師の道に進む。出会いは大事だ。外村は北海道の山奥育ちで、クラシック音楽には何の興味もなく、ピアノなんて触ったこともなかった。それでも板鳥の音にとてつもなく惹かれた。ピアノの音から森の匂いを感じたのだ。板鳥が腕のいい調律師だったことはもちろんだが、それが外村の耳に届いたということは、音を敏感に感じ取る耳があったということ。たぶん、自然の音に耳を澄ませて育ったからだろう。街の人間が知らない、森の微妙に変わる風や水の音、匂い、色、感触、などを彼は知っている。

hitsujimori3.jpg 調律の専門学校を卒業した外村は、地元・北海道にある、板鳥がいる江藤楽器に入社し、先輩の調律師・柳伸二(鈴木亮平)に付いて回って仕事を覚えることになった。そこで出会ったのがピアノを習っている高校生、姉・佐倉和音(上白石萌音)、妹・佐倉由仁(上白石萌歌)の姉妹(この2人の女優は実際に姉妹)。佐倉姉妹はプロではないのに、費用もそれなりにかかる調律を頻繁に依頼している。2人で1台のピアノをかなり弾きこんでいて、音の狂いにも敏感。本作は外村と佐倉姉妹の成長物語とも言えるので、それだけに姉妹女優の頑張りが微笑ましく映り、絶妙の配役に感じられた

江藤楽器のもう一人の調律師・秋野匡史(光石研)は、以前はピアニストを目指していた。耳が良いだけに自分の限界を知り、諦めたのだという。この会社は小さいが精鋭集団で、外村の成長を温かく見守っている。とくに板鳥の存在感は大きくて、東京だけが文化の中心地でないことを感じさせてくれるエピソードもある。

hitsujimori4.jpg外村は自分が一人前の調律師になれるのか、仕事を続けていけるのか、自信がなくて常に自問自答している。勉強熱心だからこそ悩む。専門職は続けられれば天職となるが、途中でやめたらつぶしがきかない。若い外村は、今なら他のいろんな仕事に挑戦できるだろう。中堅の柳も、例えば農家に転身したりするのもアリかもしれない。しかしベテランの板鳥や秋野は、もう調律師以外の仕事はできないような顔をしている。サマになるとはそういうことだろう。

hitsujimori5.jpg4月に入社した新入社員の方は、まだ慣れるのに精一杯の頃だろうか。先日公開された「OVER DRIVE」には、望まぬ部署に配属されたスタッフが愚痴る場面があった。望まぬ仕事でも前向きに挑戦してみる人もいれば、すぐ辞めてしまう人もいる。専門職でも自分のやりたい仕事ばかりが出来るわけではない。努力が報われない場合だってある。それでも、仕事に真摯に向き合う気持ちは無駄にはならない。結果を急ぐ若者たちへ「焦るな、結果は今後の君次第だ。」と語りかけているようなヒューマンドラマ。オリジナルのエンディング曲はじめ、ピアノの音にも魅せられる。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
posted by 象のロケット at 22:54| 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする