2019年01月30日

『ちいさな独裁者』お薦め映画

★★★★★ 2017年製作 独 (119 min)
【監督】ロベルト・シュヴェンケ(RED (レッド)、フライトプラン 、きみがぼくを見つけた日、ダイバージェント FINAL)
【出演者】
マックス・フーバッヒャー(まともな男、リスボンに誘われて)
ミラン・ペシェル
フレデリック・ラウ(ヴィクトリア、ウェイヴ、陽だまりハウスでマラソンを、コーヒーをめぐる冒険)
アレクサンダー・フェーリング、ベルント・ヘルシャー、ワルデマー・コブス、ブリッタ・ハンメルシュタイン
【あらすじ】1945年4月。 第二次世界大戦末期のドイツ。 部隊を命からがら脱走した兵士ヴィリー・ヘロルトは、道端に乗り捨てられた軍用車両の中にナチス将校の軍服を発見し、寒さをしのぐためそれを着用した。 通りすがりの兵士から「お供させてください」と言われ、そのまま大尉に成りすました彼は、架空の任務をでっち上げ部下を増やしてゆく…。 実話から生まれた戦争ドラマ。

サンセバスチャン国際映画祭撮影賞、レザルク・ヨーロッパ映画祭若手観客賞・プレス特別賞・観客賞、他多数受賞

『ちいさな独裁者』象のロケット
『ちいさな独裁者』作品を観た感想TB

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captain1.jpg 【解説と感想】押しの強さは大事だ。理不尽な要求も国家間では検討するフリをせざるを得ないし、大声で訴えれば役所でも門前払いされない。電車に乗る時もレストランでの行列でも横入りされてしまう押しの弱い私の出来ることといったら、せいぜいデパートで値切ることぐらいだ。堂々とやれば成功する。ちなみに、値切るのはデパ地下のコロッケではない。

captain2.jpg 時はヨーロッパ全体を支配しそうな勢いだったナチスドイツの敗戦が濃厚となった1945年4月。本作の主人公ヴィリー・ヘロルト(マックス・フーバッヒャー)は、脱走中のドイツ軍上等兵(下から数えた方が早い階級の兵士)だった。飢えと寒さに苦しみながら放浪していた彼は、道端に打ち捨てられた軍用車両から真新しいナチス空軍大尉の軍服を見つける。単に寒いからそれを着ただけだったのに将校と間違われ、敬礼付きで「大尉殿!」と呼ばれる心地良さから、そのまま大尉になりすましてしまった!

馬子にも衣裳と言うが、相手の本質をじっくり見極めるより、第一印象に左右される人の方が多いのだ。ヘロルトは20歳そこそこの若造で大した能力もないのに、偽りの身分に騙された人々が、彼を本当の指揮官にしてしまう。強気の姿勢で通常なら口も利けないクラスの将校たちと対等に渡り合い、どんどん部下を増やしてゆく。戦争末期のドイツ軍の指揮系統のお粗末さも見て取れる。後のドイツ軍の対応にもビックリさせられた。

captain3.jpg 最初の気弱な脱走兵の表情は消え、ヘロルトは部下から信頼され同僚からも頼られるエリート将校の顔つきになっていく。冷酷な表情が実にいい。それだけならたいした罪ではないが、次第にこの「ヘロルト親衛隊」は大変な暴走を始める。略奪を行う軍規違反者を取り締まって(つまり処刑して)いた彼の部隊の“任務”は、これもなりゆきから、どんどん大規模かつ残虐になっていくのだ。いつ嘘がバレるかという不安が、逆に彼を駆り立てていったのかもしれない。

captain4.jpg 本作は実話から生まれた物語で、ミニチュアサイズのヒトラーのような暴君となったヴィリー・ヘロルトは実在の人物である。一時は80人前後の兵士が彼に従ったという。まるで「ハーメルンの笛吹き男」のように、心理学的にも興味深い話ではないか。人は勢いに巻かれてしまう。それはかつてのナチスドイツの話だけではなく、現代の国家間でも、国内政治でも、会社でも、家庭内でも起こりうることなのだ。人は生理的に暴君を毛嫌いしながら、内心求めてもいる。自分では何も考えず、強いリーダーについていく方が楽だから。あなたは暴君になるタイプだろうか、それとも暴君に従うことで安心するタイプだろうか。終戦間近に大出世してしまった青年脱走兵の物語。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
 
posted by 象のロケット at 15:51| 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする