2015年10月02日

『ヒトラー暗殺、13分の誤算』お薦め映画

★★★★ 2015年製作 独 (114 min)
【監督】オリヴァー・ヒルシュビーゲル(ヒトラー 最期の12日間、インベージョン、ダイアナ、es ≪エス≫)
【出演者】
クリスティアン・フリーデル(白いリボン)
カタリーナ・シュットラー(コーヒーをめぐる冒険)
ブルクハルト・クラウスナー(コッホ先生と僕らの革命、白いリボン、ベルリン,僕らの革命、ゲーテの恋 君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」
ヨハン・フォン・ビュロー、フェリックス・アイトナー、ダーヴィッド・ツィンマーシート、リュディガー・クリンク
【あらすじ】1939年11月8日、ドイツ・ミュンヘンのビアホールで恒例の記念演説を行っていたヒトラーは、いつもより早く話を切り上げて退席。 その13分後、ホールに仕掛けられていた時限爆弾が爆発する。 逮捕された36歳の男ゲオルク・エルザーは、外国のスパイではなく、田舎に住むただの家具職人だった。 なぜ彼は暗殺者となったのか…? 実話から生まれた物語。

『ヒトラー暗殺、13分の誤算』象のロケット
『ヒトラー暗殺、13分の誤算』作品を観た感想TB

画像(C)2015 LUCKY BIRD PICTURES GMBH, DELPHI MEDIEN GMBH, PHILIPP FILMPRODUCTION GMBH & CO.KG cBernd Schuller All rights reserved.

elser1.jpg 【解説と感想】「安全保障関連法」が怒号のなか成立した。 60年、70年安保の頃は知らないが、こんなに国民が政治に関心を持ったのは、1988年に「消費税法」が成立した時以来ではなかろうか。賛成でも反対でもいいから、国民特に若い世代が政治に関心を持つのは良いことだと思う。ただ、お祭り気分で騒いでいるだけ、時代の流れを見物に来ているだけのような人々もいたようだ。皆が同じ方向を向いている時は気分も高揚するし、そこにいるだけで何かをやり遂げたような達成感があるのだろう。

さて本作の主人公は、ナチス・ドイツの最高指導者アドルフ・ヒトラー(1889〜1945年)を暗殺しようとした男ゲオルク・エルザー(クリスティアン・フリーデル)。 彼はヒトラーを殺そうとしたが失敗し、その時に8名の無関係な人々を死亡させた殺人犯だ。

今日ではヒトラーは20世紀最大の嫌われ者であり、彼を暗殺しようとしたエルザーは、近年英雄視されつつあるらしい。だが暗殺当時はヒトラーの全盛期で、エルザーは極刑に値するテロリストだった。罪もない人々を8名も殺したのだから、今だって死刑のはずだが、その時めでたくヒトラーが殺されていれば、ひょっとしたら数百万とも言われるユダヤ人大量虐殺は防げたかもしれない。
ヒトラー暗殺は「ワルキューレ」事件など何度も起こったものの結局は未遂に終わり、神に選ばれし者のように生き延びたヒトラーは、不幸にも勢力を拡大してしまったのである。

elser2.jpg エルザーは単独犯だと供述している。今や真偽のほどは不明だが、ナチスの情報力をもってしても、彼の所属組織や共犯者を挙げることはできなかった。エルザーは小さな町の家具職人であり、政治家や軍人でも、ユダヤ人でも、レジスタンスや共産主義者でも、インテリの理想主義者でもなかった。それどころか犯行前は、若者らしく音楽やダンスに興じ、人妻エルザ(カタリーナ・シュットラー)に手を出したりする、たいした正義感も政治思想もなさそうな男だったのだ。ところが逮捕後、彼は見事な変貌を遂げる。拷問に耐え尋問に受け答えする様子は、「信念の人」にしか見えない。

elser3.jpg ヒトラーは最初から恐ろしい独裁者だったのではない。国民の支持を得たからこそ、首相にまで上り詰めることができた。エルザーがヒトラー暗殺を実行したのは1939年。ヒトラーの権威が失墜しついに敗れるのは1945年だから、彼は極めて早い段階で、ヒトラーが危険だと見抜いたことになる。ナチスの台頭によって暮らしが変わっていくのを何となくおかしいと肌で感じていたのが、エルザーたち一般市民だった様子が、本編中でも描かれている。世界は突然ではなく、少しずつ変わっていく。気づいたら変わっていた、という日が突然やって来るだけなのだ。

elser4.jpg いくら志が高くても、一人の力なんてたかが知れている。大きな力を持たないと何もやり遂げることができないとよく言われる。しかし例えば選挙を前に複数の政党が組む場合など、大義のためにかなり無理な妥協をしなくてはならないし、結局は細かい差異が衝突を招き、やがて崩壊してしまう。大勢で真っ直ぐ行進するのは大変だが、一人だと大きなことはできない代わりに、小回りが利く。

自分が小さな存在で何の力もないと自覚する人は、市井の人が自身の感覚に従って行動を起こしたこの事件を、忘れてはならないと思う。もちろん彼のような殺人行為は言語道断だが、世のため人のために、一人でもできることはたくさんある。誰とも組まずたった一人でヒトラー暗殺を行った、平凡な男の実像と犯行動機に迫る歴史ドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
posted by 象のロケット at 19:20| Comment(0) | TrackBack(5) | 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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ヒトラー暗殺、13分の誤算
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ヒトラー暗殺、13分の誤算 / Elser
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