【監督】サム・メンデス
【出演者】ダニエル・クレイグ、ハビエル・バルデム、ジュディ・デンチ、レイフ・ファインズ、ナオミ・ハリス、ベレニス・マーロウ、アルバート・フィニー
【あらすじ】世界各地で潜入捜査をしているNATOの秘密諜報部員の情報が入ったハードドライブが盗まれた。 捜査にあたっていたMI6（英国情報局秘密情報部）のエージェント007ことジェームズ・ボンドは、同僚の誤射を受けて90m下の川に転落し、死亡扱いとなる。 一方、ロンドンのM16本部がサイバーテロによって爆破されてしまう。 犯人は過去にボンドの女性上司Mと関わりのあった人物だった…。 人気スパイアクション007シリーズ第23作。
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【解説と感想】 先日のロンドン・オリンピック開会式では、エリザベス女王を空からエスコートして拍手喝采を浴びたジェームズ・ボンド。イギリスが世界に誇るスパイ映画としては最長の007シリーズが、23作目にして原作者イアン・フレミング（1908〜1964年）でさえ予想しなかった危機に遭遇する。相手はロシアでもテロリストでもなく、ITという時代の波である。IM6（イギリス情報局秘密情報部）、お局女性上司M（ジュディ・デンチ）、007ことジェームズ・ボンド（ダニエル・クレイグ）が、なんとリストラ候補に挙げられてしまう。サイバーテロの時代に、体を張った諜報活動など無意味ではないかと糾弾されるのだ。
もうひとつの危機は年齢である。スパイ業界でも仕事の出来るベテランは扱いにくいらしく、MI6を管理する情報国防委員会委員長マロリー（レイフ・ファインズ）は、今にもボンドを切りそうな勢いである。ITのエキスパートで新しいMI6の武器開発担当者である若造Q（ベン・ウィショー）は生意気だ。まだ傷も癒えない状態で復帰したというのに、ボンドは世の中年男性同様、様々な面で辛い立場に立たされる。一日中オフィスにいてパソコンの前で諜報活動をするボンドなんて、誰が見たいと思うだろうか？ 時代や政局、犯罪形態がどう変わろうと、007は世界中の陸海空で大乱闘やカーチェイスを繰り広げ、時には敵のリンチを受けて血を流し、セクシーなボンドガールとのラブシーンで、我々を楽しませてくれなくては話にならない。そこのところはいつも通り、十分堪能できるのでご心配なく。また“スカイフォール”というタイトルの意味と共に、ボンドの孤独の原点も明らかになる。
本作最大の敵は、MI6の裏の裏まで知り尽くした謎の男シルヴァ（ハビエル・バルデム）。いまどきの犯罪らしく、コンピュータに侵入してくるが、彼もボンドと同年代で、元々は身体を張って生きてきた人物だ。復讐の妖怪と化したシルヴァはボンドに、MI6にいてもMに使い捨てにされるだけだと警告する。シルヴァの言葉は、冒頭で危うく死にかけたボンドの気持ちを代弁しているかのようだ。
高額な特殊任務手当があるにしても007は諜報活動に従事する兵隊に過ぎず、007に指示を出すMでさえも政府の駒だ。だが、どこの世界でも組織とはそんなものではないか。Mとボンドもそういうことは承知の上で、距離のある母と息子のように淡泊な信頼関係を築いている。ボンドは口数が少ないので（美女を口説く時さえ無口で、いつの間にかベッドイン…）、彼の国家やMI6、Mへの忠誠心がどの程度のものなのかは読めないが、時には上層部とやり合いながらも、仕事で結果を出すのが彼の魅力である。半世紀の間、時代の流れに沿って随時軌道修正してきたであろう007シリーズ。ちょっと気が早いが、今回の伏線を経て次回はどんな展開になるのかが、今から楽しみである。ただ、今後も007が世界を股にかけ命懸けで任務を遂行していくことだけは間違いないだろう。哀愁漂う 007ジェームズ・ボンド50周年記念大作。お薦め作品だ。
（象のロケット 映画・ビデオ部 並木）
