2010年08月04日

『小さな村の小さなダンサー』お薦め映画

★★★★★ 2009年製作 オーストリア (117 min)
【監督】ブルース・ベレスフォード
【出演者】ツァオ・チー、ブルース・グリーンウッド、カイル・マクラクラン、アマンダ・シュール、ジョアン・チェン、ワン・シャン・バオ、グオ・チャンウ
【あらすじ】1961年、中国山東省の小さな村の11歳の少年リー・ツンシンは、親元を離れ北京の舞踊学校に入学する。 毛沢東夫人で元女優の江青は、各地から選んだ少年少女に、文化政策としてバレエの英才教育を施していたのだ。 厳しいレッスンから落ちこぼれてしまったリーは、ある日、古典バレエのテープを見て感動するのだが…。 実在するバレエ・ダンサーの物語。
『小さな村の小さなダンサー』象のロケット
『小さな村の小さなダンサー』作品を観た感想TB

画像(C)Last Dancer Pty Ltd and Screen Australia All rights reserved.

dancer1.jpg 【解説と感想】本作を鑑賞する一週間ほど前に、たまたま熊川哲也主宰のKバレエカンパニー『眠れる森の美女』の舞台を鑑賞したが、ケガからの復活は見事であった。 熊川が東洋人としては初めて英国ロイヤル・バレエ団に入団したのが1989年。 彼は帰国して、日本のバレエ界発展のため奮闘中である。

一方、本作の主人公リー・ツンシンは中国で生まれ、1979年に短期の研修目的で渡米する。環境と体制も大きく異なる外国で受けたカルチャーショックは、熊川の比ではないだろう。

おそらくバレエが何なのかも知らなかったであろう小学生が、身体検査で適性を認められたために親元を離れ、北京で国家の英才教育を受けることになった。まるで徴兵された兵士を見送るような村を上げての壮行会。リーは村の期待を一身に担い、国家に奉仕するために舞踊学校へ入学したのだ。

dancer2.jpg その舞踊学校でリーを励ましてくれていたチェン先生が、反革命分子として排斥される。彼は過激派ではなく、ただ単に真の芸術を追求するアーティストなのだが、「踊りは悪くない。でも革命はどこにあるの?」という江青(中国革命の指導者で中華人民共和国の最高権力者であった毛沢東の妻)の言葉に象徴される、まず体制ありきのバレエ教育にはついていけなかったのである。

絵画、文学、演劇などには人間の内面が現れる。社会風刺が含まれていると何となく高尚な作品のように感じられてしまう場合もあるが、主張が多すぎるものは目的が思想の波及になっているから芸術面ではだいぶ制約を受ける。度を越せばチェン先生の言うとおり、「それはもうバレエではない。」ということになってしまう。バレエに銃は似合わない。

dancer3.jpg 国家の威信をかけてのスポーツ教育。徹底的に基礎体力をつけ、十分な訓練を積んだ彼らのバレエは、ヒューストン・バレエ団の芸術監督ベンに「ダンサーというよりはアスリートだ。」と言わしめる結果ともなった。
リーは、チェン先生の残したビデオテープで革命とかけ離れた美しい舞踊を鑑賞し、その踊りと自分たちの踊りがいかに違うかを感じ取っていた。だからこそ「井の中の蛙」でいたくないという思いが高まっていく。

やがて彼は、祖国・中国を捨て、自由なアメリカで芸術的なバレエを究めるか、中国の家族の安全のためにも、アメリカ人の恋人と別れ帰国するかの選択を迫られる。当時はその二者択一しかなかったのだ。

dancer4.JPG 思春期のリーを演じるグオ・チャンウも、大人になってからの役のツァオ・チーも、共に中国から外国へ渡ったという点ではリーと人生が重なる。当時と今とでは中国の体制も変わり、彼らのようなダンサーを多数輩出しているのだろう。俳優としての演技も十分満足できるものであった。

本物のバレエ団の協力により、古典も現代舞踊も、どれもダンス・シーンは素晴らしかった。本作は体制の違いを批判するのではなく歴史的事実として描いている。バレエに感動し、若き主人公の苦悩に共感し、ラストでは思わずもらい泣き。バレエ好きの方も、歴史好きの方も、映画好きの方も楽しめる、お薦め作品だ。
(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)



posted by 象のロケット at 09:50| Comment(1) | TrackBack(6) | 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
トラックバックありがとうございます!
私も音楽をやっています。
シンガーソングライターで食べていきたいと思っています。
映画は音楽の勉強、感性をのばすのためと思い見ていましたが、今ではすっかり映画ファンです☆
とっても素敵なblogですね♪
またのぞきに来ます^^
よろしくお願いします☆
Posted by nozomi at 2010年09月05日 15:40
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