2019年02月18日

『翔んで埼玉』お薦め映画

★★★★ 2018年製作 日 (107 min)
【監督】武内英樹(テルマエ・ロマエ、のだめカンタービレ 最終楽章 前編、今夜、ロマンス劇場で、テルマエ・ロマエII )
【出演者】二階堂ふみ(この国の空、オオカミ少女と黒王子、リバーズ・エッジ、蜜のあわれ)
GACKT(悪夢ちゃん The 夢ovie、劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー)
伊勢谷友介(雪に願うこと、嫌われ松子の一生、CASSHERN、図鑑に載ってない虫)
京本政樹、ブラザートム、麻生久美子、島崎遥香

【あらすじ】その昔、埼玉県人は東京都民から大変な差別と迫害を受けており、通行手形がないと東京に出入りすら出来なかった。 都知事の息子・壇ノ浦百美が生徒会長として君臨する東京の超名門校・白鵬堂学院に、アメリカ帰りの麻実麗が転入して来る。 実は麗は隠れ埼玉県人で、手形制度撤廃を目指す埼玉解放戦線の主要メンバーであった…。 ギャグコメディ。
原作:魔夜峰央『このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉』

『翔んで埼玉』象のロケット
『翔んで埼玉』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

saitama1.jpg 【解説と感想】 都道府県の中で道・府・県と東京都の間には、純然たる格差がある。都内(東京23区内)と都下(その他の東京地域:武蔵野市や西多摩郡など)の間にも、23区内の中にも明らかな差がある。不動産価格で考えれば分かりやすい。都会指数の高い場所の土地は高い。気位も高くなっちゃうのかも。地方出身者でさえ都民になった途端、千葉都民・埼玉都民を小バカにするようになってしまうのだから、始末に負えない。

本作は、埼玉が都民から徹底的に差別されていることを前提とした物語である。ちなみに原作者の漫画家・魔夜峰央氏は新潟県出身で、埼玉県所沢市に住んでいたことがあるらしい。つまり「ずっと都内在住」、「ずっと地方在住」の人よりも、ずっと「格差」を体験してきたであろうお方なのだ。

saitama4.JPG 主人公・壇ノ浦百美ダンノウラモモミ(二階堂ふみ)は東京都知事(中尾彬)の息子で都内超名門校の生徒会長。そしてもう一人の主人公・麻実麗アサミレイ(GACKT)はアメリカ帰りの転校生で都会人のフリをした隠れ埼玉県人。千葉解放戦線の策士・阿久津翔(伊勢谷友介)、伝説の人物・埼玉デューク(京本政樹)、悪玉・神奈川県知事(竹中直人)も登場し、陰謀と駆け引きが始まる。百美と麗は最初から最後まで男子高校生である、念のため。

百美が君臨する白鵬堂学院には、都会指数に準じた出身地別の身分制度がありトップはA組。埼玉県出身者は底辺のZ組で校舎に入ることすら許されず、ひどい仕打ちを受けている。そして、埼玉県民は「通行手形」がないと東京に出入りすることができず、不法滞在移民のように強制連行されてしまう。麗は、そんな可哀想な埼玉県人の救世主となるべく立ち上がった!

saitama2.JPG 私にとってGACKTは正体不明のミュージシャン。美形なのかもしれないが、なんだか素顔がよく分からない。演技力は…麗役にはピッタリだったからきっと良かったのだろう。45歳で高校生には見えなくても、全く問題ない。百美が麗に一方的に恋をする様子も面白いし、麗が拷問やキスで悶え苦しむシーンはセクシーで笑えた。鑑賞後もGACKTへの謎は深まるばかりだが、もともと高かった彼のスター指数は本作で更にアップしたと思う。

saitama3.JPG 原作はとっても短いのに、よくぞここまで内容を膨らませたなと感心した。ストーリーも人物設定も全てがオカシイのだが、それでこそ「パタリロ!」の魔夜峰央ワールド。傲慢な都民が関東各県をいたぶる様子も、関東県民の自虐ネタも「あるある」で吹き出してしまう。散々こき下ろされた埼玉県人の皆さん、怒ったフリして楽しもう。壮大なスケールで描く、大真面目であり得ない愛と革命のギャグコメディ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
 
posted by 象のロケット at 20:38| 超お薦め映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月30日

『ちいさな独裁者』お薦め映画

★★★★★ 2017年製作 独 (119 min)
【監督】ロベルト・シュヴェンケ(RED (レッド)、フライトプラン 、きみがぼくを見つけた日、ダイバージェント FINAL)
【出演者】
マックス・フーバッヒャー(まともな男、リスボンに誘われて)
ミラン・ペシェル
フレデリック・ラウ(ヴィクトリア、ウェイヴ、陽だまりハウスでマラソンを、コーヒーをめぐる冒険)
アレクサンダー・フェーリング、ベルント・ヘルシャー、ワルデマー・コブス、ブリッタ・ハンメルシュタイン
【あらすじ】1945年4月。 第二次世界大戦末期のドイツ。 部隊を命からがら脱走した兵士ヴィリー・ヘロルトは、道端に乗り捨てられた軍用車両の中にナチス将校の軍服を発見し、寒さをしのぐためそれを着用した。 通りすがりの兵士から「お供させてください」と言われ、そのまま大尉に成りすました彼は、架空の任務をでっち上げ部下を増やしてゆく…。 実話から生まれた戦争ドラマ。

サンセバスチャン国際映画祭撮影賞、レザルク・ヨーロッパ映画祭若手観客賞・プレス特別賞・観客賞、他多数受賞

『ちいさな独裁者』象のロケット
『ちいさな独裁者』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film All rights reserved.

captain1.jpg 【解説と感想】押しの強さは大事だ。理不尽な要求も国家間では検討するフリをせざるを得ないし、大声で訴えれば役所でも門前払いされない。電車に乗る時もレストランでの行列でも横入りされてしまう押しの弱い私の出来ることといったら、せいぜいデパートで値切ることぐらいだ。堂々とやれば成功する。ちなみに、値切るのはデパ地下のコロッケではない。

captain2.jpg 時はヨーロッパ全体を支配しそうな勢いだったナチスドイツの敗戦が濃厚となった1945年4月。本作の主人公ヴィリー・ヘロルト(マックス・フーバッヒャー)は、脱走中のドイツ軍上等兵(下から数えた方が早い階級の兵士)だった。飢えと寒さに苦しみながら放浪していた彼は、道端に打ち捨てられた軍用車両から真新しいナチス空軍大尉の軍服を見つける。単に寒いからそれを着ただけだったのに将校と間違われ、敬礼付きで「大尉殿!」と呼ばれる心地良さから、そのまま大尉になりすましてしまった!

馬子にも衣裳と言うが、相手の本質をじっくり見極めるより、第一印象に左右される人の方が多いのだ。ヘロルトは20歳そこそこの若造で大した能力もないのに、偽りの身分に騙された人々が、彼を本当の指揮官にしてしまう。強気の姿勢で通常なら口も利けないクラスの将校たちと対等に渡り合い、どんどん部下を増やしてゆく。戦争末期のドイツ軍の指揮系統のお粗末さも見て取れる。後のドイツ軍の対応にもビックリさせられた。

captain3.jpg 最初の気弱な脱走兵の表情は消え、ヘロルトは部下から信頼され同僚からも頼られるエリート将校の顔つきになっていく。冷酷な表情が実にいい。それだけならたいした罪ではないが、次第にこの「ヘロルト親衛隊」は大変な暴走を始める。略奪を行う軍規違反者を取り締まって(つまり処刑して)いた彼の部隊の“任務”は、これもなりゆきから、どんどん大規模かつ残虐になっていくのだ。いつ嘘がバレるかという不安が、逆に彼を駆り立てていったのかもしれない。

captain4.jpg 本作は実話から生まれた物語で、ミニチュアサイズのヒトラーのような暴君となったヴィリー・ヘロルトは実在の人物である。一時は80人前後の兵士が彼に従ったという。まるで「ハーメルンの笛吹き男」のように、心理学的にも興味深い話ではないか。人は勢いに巻かれてしまう。それはかつてのナチスドイツの話だけではなく、現代の国家間でも、国内政治でも、会社でも、家庭内でも起こりうることなのだ。人は生理的に暴君を毛嫌いしながら、内心求めてもいる。自分では何も考えず、強いリーダーについていく方が楽だから。あなたは暴君になるタイプだろうか、それとも暴君に従うことで安心するタイプだろうか。終戦間近に大出世してしまった青年脱走兵の物語。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
 
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2019年01月11日

『洗骨』お薦め映画

★★★★★ 2018年製作 日 (111 min)
【監督】照屋年之(ゴリ)
【出演者】
奥田瑛二(でらしね、もう頬づえはつかない、るにん、リバイバル・ブルース)
筒井道隆(王様のレストラン TV版、俺は、君のためにこそ死ににいく、ボクの、おじさん、BALLAD 名もなき恋のうた)
水崎綾女(光、進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド、進撃の巨人 ATTACK ON TITAN、ReLIFE リライフ)
大島蓉子、坂本あきら、鈴木Q太郎、筒井真理子
【あらすじ】沖縄県の離島・粟国島(あぐにじま)。 新城家の母・恵美子が亡くなり、東京の大企業に勤務する長男・剛と、名古屋で美容師をしている長女・優子は葬儀に駆け付けるが、父・信綱は悲しみのあまり酒ばかり飲んでいた。 …4年後、母の“洗骨”の儀式のため再び島へ戻って来た剛と優子。 兄と妹はそれぞれ、ある事情を抱えていた…。 ヒューマンドラマ。 
ニューヨーク JAPAN CUTS 観客賞

『洗骨』象のロケット
『洗骨』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)『洗骨』製作委員会

【解説と感想】現代はテレビやインターネットの普及、全国チェーン店の増加で、町並みも暮らしも言葉も東京を中心とした画一化が進んでいるが、まだまだ地方の個性が残っているところも多い。それが旅の楽しみでもある。かつては琉球王国だった沖縄と奄美群島には、本土とはかなり違う言葉や風習が残っていて、エキゾチックな魅力と美しい自然が、国内の観光客をも虜にしている。独特の音階の島唄も新しいジャンルの音楽のように人気だ。

senkotsu1.jpg 本作は、そんな沖縄の離島・粟国島(あぐにじま:「粟国の塩」で有名)が舞台で、新城家の母・恵美子(筒井真理子)の葬儀から始まる。田舎では葬式が一大イベントで、ご馳走や酒目当てにやって来る会葬者も多いのが分かる。元は工場経営者だったらしい父・信綱(奥田瑛二)の元に、東京の大企業で働く長男・剛(筒井道隆)、名古屋で美容師をしている長女・優子(水崎綾女)が駆け付けるところまでは、一般的な葬式だ。

senkotsu2.jpg …4年後、母の「法要」=「洗骨」のため、兄と妹はまた島へ帰って来た。この島では葬儀後に「火葬」せず棺をそのまま放置する「風葬」を行い、遺体がすっかり骨になった4年後に、身内が集まって骨を洗う「洗骨」の儀式を行い再び埋葬を行うのだという。親族が集まるというのに、無職の父親はゴミ屋敷で酒浸り。長男はなぜか妻子を連れて来なかった。長女は独身なのに妊娠しており噂の種になってしまう。

父親は、ひたすら情けなくだらしなく、酒に溺れるだけの毎日。いつ死んでもいいと思っている人ほど、お迎えが来ないもの。長男と長女は島とは別世界のような都会で頑張ってきただけに、弱音を吐いたり人に頼ったりすることが出来なくなってしまったようだ。父親も心配だが自分のことで手いっぱい。父親も子どもたちには、もはや何もしてやれない。どん詰まりのこの家族は、もう法事なんてやってる場合じゃないのではと思ってしまうほどバラバラなのだ。

senkotsu3.jpg しかし、葬式や法事は故人の冥福を祈る儀式であると共に、遺族の心を癒す行事でもある。葬儀の準備に慌ただしく追われることが悲しみを紛らわせ、年忌の度に故人と自分の関係を見つめ直す。そして集まる人々の思いやりが遺族の力になるのだ。誰よりも一家を心配している伯母=父の姉・高安信子(大島蓉子)が、ガミガミ言いながらも采配を振るい「洗骨」の準備を進めていく。この肝っ玉オバサンなくしては何も始まらない。「洗骨」を終えて初めて、新城家は前に進むことが出来るのであろう。

初めて見る「洗骨」の儀式は実に興味深く、驚かされた。廃れつつある風習なだけに、後々には貴重な記録にもなるだろう。そして、洗骨に至るまでの紆余曲折が、美しい島の風景と、田舎ののどかさ・不便さ・窮屈さ、普通の家族の軋轢、地方出身者が味わう都会の孤独を浮き彫りにしてゆく。感動的だが、笑いどころ満載でクスクスが止まらない!

監督・照屋年之は、沖縄県那覇市出身のお笑いタレントで俳優のガレッジセール・ゴリの本名。私はそれを知らないまま見に行ったので、ビックリしてしまった。沖縄への愛が詰まった、ユニークで温かい家族のドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
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2018年11月01日

『ボヘミアン・ラプソディ』お薦め映画

★★★★★ 2018年製作 英・米 (135 min)
【監督】ブライアン・シンガー(X-MEN、スーパーマン リターンズ、X-MEN:アポカリプス、ユージュアル・サスペクツ)
【出演者】
ラミ・マレック(ニード・フォー・スピード、ナイト ミュージアム エジプト王の秘密、ナイト ミュージアム、ザ・マスター )
ルーシー・ボイントン(シング・ストリート 未来へのうた)
グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョー・マッゼロ、エイダン・ギレン、アレン・リーチ
【あらすじ】1970年、イギリス・ロンドン。 昼は空港で働き、夜はライブ・ハウスに入り浸っていた青年フレディは、ギタリストのブライアンとドラマーのロジャーのバンドの新しいヴォーカリストとなり、ベーシストのジョンを加え、ロックバンド「クイーン」として活動を始める。 数々のヒット曲が生まれ、彼らは世界的大スターとなるが…。 音楽ヒューマンドラマ。
音楽総指揮:ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー

『ボヘミアン・ラプソディ』象のロケット
『ボヘミアン・ラプソディ』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.


bohemian1.JPG 【解説と感想】 世界を代表するイギリスのロックバンド「ビートルズ」の活動期間は1950年代後半〜1970年。そして同じくイギリスのロックバンド「クイーン」の4人全員での活動期間は1973年〜1980年代初め。どちらも昔のバンドで、私もリアルタイムでは彼らの活躍の記憶はあまりない。だが、そのメロディーは今も世界中の至る所で流れているし、新しいファンも増やし続けている。ビートルズのジョン・レノン射殺事件と同じくらい衝撃的だったのが、クイーンのヴォーカル、フレディ・マーキュリーのHIV感染。メンバーの死で両バンドの伝説は更に大きくなったが、オリジナル・メンバー全員揃っての活動はもう出来ない。

『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』、『ザ・ローリング・ストーンズ:シャイン・ア・ライト』はドキュメンタリー映画で、彼らの歩みと知られざる姿を見せる構成と音楽的な満足感と臨場感で観客を魅了した。しかし本作『ボヘミアン・ラプソディ』は「クイーン」のドキュメンタリー映画ではなく、フレディ・マーキュリーの歌声(誰も真似出来ないだろう)が使われているものの、俳優が演じるフレディ・マーキュリーを主人公とした「クイーン」の伝記映画である。なので期待と不安が半々だったが、鑑賞後の満足度は非常に高かった。

bohemian2.jpg 両親がペルシャ系インド人で、幼少期をインドで過ごしたフレディ・マーキュリー(ラミ・マレック)は、最初はメアリー・オースティン(ルーシー・ボイントン)という女の子に恋する、普通の可愛らしい長髪の少年だった。だが次第に男っぽさを強調する外見になりゲイ化してゆく。彼はずっと両性愛者だったと言われている。大学でデザインを専攻していたので衣裳へのこだわりも強かった。そんな彼の心身の変化や葛藤、音楽スタイルの変化が手に取るように観客に伝わるのは、ストーリー性のある映画ならではだろう。

bohemian3.jpg 全員が作詞・作曲が出来て幾つもの楽器をこなし歌える芸達者で、ぶつかることも多かったからこそ、作品の完成度も高かった。特にタイトルにもなっている“ロック・オペラ”「ボヘミアン・ラプソディ」の録音シーンは、若さゆえの妥協しない姿、制作への熱意、ハチャメチャな勢いがユーモアたっぷりに描かれていて笑わせてくれる。ギタリストのブライアン・メイ(グウィリム・リー)、ドラマーのロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)、ベーシストのジョン・ディーコン(ジョー・マッゼロ)と、フレディの波長が次第に合わなくなっていくのが悲しい。

1985年に開催された20世紀最大のチャリティ音楽イベント“ライヴ・エイド”のシーンは圧巻で、衣装も一部は当時の本物が使われており、メンバーになり切った俳優たちの全身全霊のパフォーマンスに、胸が熱くなる。本作の音楽総指揮は、現在も「クイーン」として精力的に活動しているブライアン・メイとロジャー・テイラー。これ以上の「クイーン」映画はないだろう。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)



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2018年10月04日

『母さんがどんなに僕を嫌いでも』お薦め映画

★★★★ 2018年製作 日 (104 min)
【監督】 御法川修 (人生、いろどり、すーちゃん まいちゃん さわ子さん、SOUL RED 松田優作)
【出演者】
太賀(十年 Ten Years Japan、青い鳥、ポンチョに夜明けの風はらませて、南瓜とマヨネーズ)
吉田羊(コーヒーが冷めないうちに、ラブ×ドック、嫌な女、映画 ビリギャル)
森崎ウィン(劇場版 怪談レストラン、天国からのエール、レディ・プレイヤー1、書道ガールズ!! わたしたちの甲子園)
白石隼也、秋月三佳、小山春朋、木野花

【あらすじ】 少年タイジは美しい母・光子が大好きで、手間暇かけて作ってくれる混ぜご飯が大好物。 だが、家の中では光子は情緒不安定で、タイジに暴力を振るっていた。 17歳で家を出たタイジは、自分の殻に閉じ籠りがちな青年になった。 相変わらず冷たい母と再会した彼は、自分と母の関係を変えようと決意する…。 実話から生まれたヒューマンドラマ。
原作:歌川たいじ 主題歌:ゴスペラーズ『Seven Seas Journey』

『母さんがどんなに僕を嫌いでも』象のロケット
『母さんがどんなに僕を嫌いでも』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2018『母さんがどんなに僕を嫌いでも』製作委員会

kasan1.jpg 【解説と感想】 体罰は、教師から生徒への「熱血指導」、親から子への「厳格な躾け」として容認されてきたが、今は「暴力」や「虐待」という「事件」になりかねない時代となった。暴力が「愛のムチ」であるか否かは、第三者や当人同士にさえ分からない場合もある。時には「愛のムチ」が必要な場合もあると思うのだが…。

しかし、本作の主人公タイジ(太賀)が母・光子(吉田羊)から受けていた暴力は、明らかに「躾け」ではなく「虐待」である。美人で気が利いていて東京下町の人気者だった光子は、外面は良いが秘かに息子を叩いていた。夫の浮気のストレスもあったし、ノロマで太っている息子が不甲斐なく、イライラしたのかもしれない。背中に酷い傷跡が残るほどの暴力と、心がズタズタになるような言葉の暴力に耐えかね、タイジは17歳で家出してしまう。

kasan2.jpg 幼少期のタイジ(子役・小山春朋)はいくらぶたれても、美味しい混ぜご飯を作ってくれる、きれいなお母さんが大好きだった。虐待を受ける幼児は、ぶたれるのは自分が悪いからだと思ってしまうらしい。また、ぶたれる悲しさを知っているはずなのに、自分が親になると、我が子を虐待しがちであるという。貧困の連鎖と同じく、暴力の連鎖である。虐待はそれほど子の精神にダメージを与えてしまう。タイジはよくグレなかったものだ。

kasan4.jpg そんな暗い家庭生活を送っていたタイジは、人と接することが苦手だったが、自分を変えようと努力した。それは、子どもの頃に実家工場の従業員だった婆ちゃん(木野花)と、就職後に出会ったキミツ(森崎ウィン)、カナ(秋月三佳)、大将(白石隼也)という友人たちのお蔭でもある。彼らはタイジがたとえ後ずさりしても、2歩3歩と心の中に踏み込んで来た。それは相手を思うがゆえの、愛情や友情という名の「お節介」。昨今はそんな「ウザイ」お節介焼きも、少なくなってしまった。

kasan3.jpg ようやく青春を謳歌できるようになったタイジは、絶縁状態だった光子と再会する。母の息子への態度は相変わらず冷たかったが、何とここでタイジは、光子と普通の親子のようになりたいと願うのである。自分の努力で人生を一山乗り越えたからこそ、母のことに気を配る余裕が出たのもしれない。共感できる人と、出来ない人がいるだろう。そこまでしなくてもいいんじゃないのとも思う。だが、人間関係は理屈で割り切れるものではない。果たして健気な息子の優しさは、笑顔一つ見せない母親に通じるのか…?

原作は、ゲイを公表し性的少数者への理解を求める活動を積極的に行っている、小説家・漫画家・エッセイストの歌川たいじ(1966〜)の自伝的小説。ただし、映画はゲイとは全く関係はなく、あくまでも虐待を受けた青年の成長物語である。どんなに母親に嫌われても、ぶたれても、母の愛を求め続ける姿が痛々しく、悲しく、愛おしくて泣けてしまう。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
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